小説恋愛小説

小さなキューピット~短編恋愛小説


私の声は、甘く響き渡っているのだろうか。絡み合う指先。吐息。
人の温もりなんて、自分から求めたことなんてなかった。あなたに会うまでは。

夜藻技雨美。二十歳。フリーター。高級スーパーのレジ担当で採用された。黒くて長い髪を後ろで束ねてひたすらレジを打つ。


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(山岡伸幸)「こんにちは、あめちゃん」

ジュース一本だけ買う彼は山岡伸幸。22歳。金髪にウェーブのパーマ。耳には沢山のピアス。

そして女好き。

(夜藻技雨美)「こんにちは伸幸さん」

(山岡伸幸)「もう、いつも呼び捨てでって言ってるのにー。ねぇ、今夜どう?給料入ったからさ、はずむよ?」

(夜藻技雨美)「…いいですよ」

給料入ったのにジュース一本しか買わないのね。

(パート)「夜藻技さん、さっきの人彼氏くん」

にっこり笑って答える

(夜藻技雨美)「違いますよ、ただの知り合いです。」

(パート)「そうよねー、あんなチャラチャラした人、夜藻技さんには似合わないわよ。」

じゃぁどんな人が似合うの?
あることないことおもしろおかしく話して話が広がる。損するだけ。
ロッカールームで着替えて、スーパーの裏玄関から出る。少し歩いたところにコンビニ。コンビニ前でしゃがみ込みながらたばこを吸う彼に声をかける。

(夜藻技雨美)「お待たせしました。」

私の声に反応し、顔を見上げ、ニカッと笑い

(山岡伸幸)「じゃぁ行こうか」

わたしの手を引いた。

(山岡伸幸)「いつもの所で良い?」

(夜藻技雨美)「はい」

車に乗り込む、高そうな車。色は白。ある建物の駐車場に入る到着し、部屋に入る。いつも思うけれどスムーズよね。なれた手つきで、私のまとっているものをはがしていく。右手は彼の左手で絡み合うように繋がれていく。首筋に唇を滑らせ、私は微かに声を上げる。微かに汗ばむ彼の背中に手をまわして抱きしめる。このときだけ夢中になる。彼だけを感じていられる。でも…ただそれだけ。終わればスイッチは切れる。

(山岡伸幸)「今度いつあえる?」

(夜藻技雨美)「どうでしょう、私は気まぐれだから。ところで電話でないんですか?ずっと鳴ってますよ?」

(山岡伸幸)「あー、うん、後でかけなおすから大丈夫。」

それにしても綺麗な横顔。シャワーを浴びて、着替えもすんで、ベットの上でだた2人並んで横になり話をする。彼は何故か終わってもすぐには帰らない。たわいのない話をして笑い合って、それから帰る。変わった人。

伸幸さんと初めてあったのは約二年前。公園で男性に囲まれボコボコにされていた彼を見て、コンビニで卵をかって帰る途中だった私はとっさに卵を取り出して一つ一つ投げつけた。相手は三人…。見事に命中した。三人は驚きそしてこちらを振り返った。

私は出来るだけ大きな声で叫んだ。

(夜藻技雨美)「誰かー!助けてー!」

ダメもとで。自分でも驚くほど声が出た。三人は走り去っていった。私は慌ててうずくまっている男性に近寄った。

(夜藻技雨美)「大丈夫ですか?」

すると彼は私を見て一言

(山岡伸幸)「女神」と。

こうなった原因はあの3人のなかの1人の彼女を寝取ったとか。
放っておくわけにもいかず、私のアパートへ一日だけ泊まらせることにした。ボロボロのアパート。でも、かれは何も言わなかった。軽く傷の手当てをした。その日、指一本触れてくることはなかった。
翌朝。うるさくドアをたたく音で目が覚めた。

(男1)「いるよねー?お金返してよ~?」

(男2)「とりあえず今日は五万でいいよー。ね?」

ドア越しで聞こえる声。物心ついた頃からお父さんは居なかった。お母さんはいつも家にいなくて、いても知らない男と一緒だった。ついには借金して姿を消した。今、財布に三万しか持っていない…。とりあえず三万だけでも。そう思いドアノブに手を伸ばそうとした手に大きな手が重なった。

(山岡伸幸)「とりあえず十万ある。今日はこれで勘弁してくれない?」

まっすぐな瞳。

(男1)「おお、また来るよ」

(夜藻技雨美)「どうして?!あなたには関係ないのに!」

(山岡伸幸)「君だって昨日関係ないのに助けてくれたでしょ」

これがきっかけで、度々会うようになり、伸幸さんはお金を渡してくれる。
そしていつしか身体を重ねる関係になった。

ただ彼は女癖が悪い、電話は鳴りっぱなし。

(山岡伸幸)「はい、今日の分」

(夜藻技雨美)「ありがとう…」

(山岡伸幸)「そんな顔しないで、俺がしたくてしてることだから」

(夜藻技雨美)「うん」

私の手には封筒。借金はまだ残っている。全部返せたとき。その時、きっぱり離れよう。自分のためにも彼のためにも。

(夜藻技雨美)「いらっしゃいませー」

(男の子)「いーやだー!僕の欲しいのこれじゃないの!黒いロボット付いてるのがいいのー!」

(木下守)「仕方ないだろ?見つからないんだ」

あ!これ…たしか最近入荷されたって噂されたものかも!

(夜藻技雨美)「あの、少々お待ちいただけますか?」

そういって走った。品出しの人に聞いて、

(店員)「それだったらそこにありますよ」

(夜藻技雨美)「ありがとうございます!」

手にとり急いでレジに戻って男の子の前へしゃがんで手に持ってる物を見せた。

(夜藻技雨美)「君が探してるのはこれかな?」

(男の子)「あ、これ!これ!探してたの!」

(夜藻技雨美)「そっか、これ格好良いもんね!」

にっこり笑うと男の子も「うん!」嬉しそうに笑った。

(木下守)「ありがとう、わざわざすまない。」

(夜藻技雨美)「いえ、気になさらないでください!私もこれ、格好良いなって思って覚えてたんです。ふふ」

すると男性はそっぽを向いてしまった。何か失礼なこと言っちゃったかな…。それにしても仲の良い親子だったな。それからというもの度々お店で見かけるようになった。そして何故か私のレジに並ぶことが多い。

(夜藻技雨美)「いつもご利用ありがとうございます。今日は息子さんご一緒じゃないんですね。」

(木下守)「息子?ああ、あいつは甥っ子だ」

(夜藻技雨美)「あ、そうなんですね、失礼しました。」

(木下守)「安心したか?」

(夜藻技雨美)「え?」

(木下守)「いや、何でもない。君は独身か?」

(夜藻技雨美)「はい」

(木下守)「そうか」

あ、目を細めた。こんな表情もするんだ…爽やかな短髪に黒縁メガネがよく似合う。

(男1)「夜藻技雨さーん、探したよー。ここで働いてたんだ?」

(夜藻技雨美)「すみません、他のお客様のご迷惑になりますのでお引き取りください。」

(男1)「ふーん、そんなこと言える立場か?」

(男2)「ここじゃなくてもっと稼げるところ紹介してあげるよ?」

(夜藻技雨美)「申し訳ありませんが…」

(木下守)「いくら?」

(夜藻技雨美)「え?」

(男1)「新しい男~?500万」

(男2)「こんな女とは早く分かれた方がいいよー。500万だよ?」

するとお客様はスタスタと店を出た。

(男1)「可哀想にー。」

にやにや笑う、下品な男。でも無理もない。500万は大金だもの。

(夜藻技雨美)「いいですよ、どんな仕事でもやります」

(木下守)「駄目だ」

(夜藻技雨美)「…え?」

どうして戻ってきたの?

(木下守)「この中に500万入ってる」

そう言って分厚い封筒を男に押し付けた。

(男2)「まじかよ?!」

(木下守)「あと、これ、契約書。もらってないとか言われたら困るからな」

待って…どうして…。

(夜藻技雨美)「あなたが払う必要はないはずです!」

男2人が去った後、私は混乱していた。

(木下守)「君が欲しくなった。ただそれだけだ」

ああ、そうか。

(夜藻技雨美)「あなたも私の中身なんて興味なんてないんですね。表面しか見てくれないんですね。」

気がついたら涙をこぼしていた。

(木下守)「すまない、そんなつもりで言ったんじゃないんだ。俺は木下守。25歳、木下コーポレーションの社長の一応息子。さっきの金は自分で働いて稼いだ金だ。君を好きになった。これでは理由にならないか?」

温かい指先が私の頬に触れる。彼の温もり。

(夜藻技雨美)「すみません、私は…汚れてる。木下さんが思っているような女性ではないんです。」

好きでもない人と肌を重ねられる軽い女。お金だって受け取ってる最低な女。

(夜藻技雨美)「そろそろ仕事に戻らないと、すみません。お金は必ず返します。失礼します」

(山岡伸幸)「あめちゃん?…誰、そいつ」

聞いたことない低い声に、冷たい瞳。

(夜藻技雨美)「伸幸さん…あの…」

(山岡伸幸)「あめちゃんは、俺の女だよ?俺のために泣いて、俺のために笑って?」

私は逃げるように仕事に戻った。500万早く返さないと…。

でも、あんな大金すぐには返せない。

翌朝。

(夜藻技雨美)「いらっしゃいませー」

(甥っ子)「おねぇーちゃん!おはよ!」

(夜藻技雨美)「元気いっぱいだね!おはよ!ふふ」

(木下守)「おはよう」

(夜藻技雨美)「あ、おはようございます。」

(木下守)「例えばの話しなんだが、仕事の間、会社でこいつの面倒見てくれないか?兄貴たち今、海外でしばらく帰ってこないんだ。仕事の依頼だ。俺も仕事に専念したい。500万溜まったらすぐにでも辞めて構わない。」

私でも知ってる会社。早く返すにはこの方法しかない。

(夜藻技雨美)「やらせてください!よろしくお願いします。」

(木下守)「健太、今日からこのおねえさんが一緒にいてくれる。良かったな」

(健太)「本当?!やったぁ!おねぇーちゃん!いっぱい遊ぼうね!」

(夜藻技雨美)「うん、よろしくね、健太くん」

にっこり笑う。健太くんもにっこり笑った。

(木下守)「会社戻るぞ」

(健太)「うん!」


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ここのスーパーは働いている人数が多いため、突然辞めても問題ないが。私は夜勤に変えてもらった。その方がお金貯まるのも早いだろう。木下さんも渋々了解してくれた。
車から下りて会社までの間、健太くんはにこにこしながら、右手は私の手を左手は木下さんの手を繋ぎながら、ぶんぶん揺らす。
慣れているのか木下さんは気にしてない様子。でも、周りの目が…。

(野々田千恵美)「守さん!どちらに行ってらっしゃったんですか?!」

(木下守)「すまない。今日から健太の面倒は彼女にお願いすることにしたから、秘書室は彼女と健太が使う。今日から自分の部署に戻ってくれ」

(野々田千恵美)「…かしこまりました。」

納得いかないと言うような顔をする女性。私を睨んでる。私は仕事のためにきただけ。

(健太)「僕、あの人嫌いなの。」

健太くんは本当によく笑う。思わず何度もギュウと抱きしめた。そのたびに木下さんにはがされるように離される。

(木下守)「こいつの作戦だから」

と言った。健太くんを見ると首を傾げて不思議そうにしていた。
木下さんの大きなため息が耳元で聞こえた。

(木下守)「だから、違うだろ!何度言わせるんだ!」電話で怒鳴る木下さん。

(健太)「守くん、怖い…」

(夜藻技雨美)「大丈夫、大丈夫だよ。守君はね、お仕事で一生懸命なんだよ。ただちょっとイライラ虫がお腹の中にいるの」

(健太)「そうなの?」

(夜藻技雨美)「うん、だからイライラ虫退治しようか?ふふ」

(健太)「うん!」

確か、すぐ近くにコンビニあったはず!2人でそっと抜け出した。食パン卵サラダ、ポテトサラダ、レタス、スライスチーズ。うん、こんな感じかな。会計をすませ、健太くんと手を繋ぎ会社に戻り綺麗に手を洗い、作業を始めた。

健太くんはにこにこ楽しそう。私も楽しい。電話に夢中の守さん。

(夜藻技雨美)「健太くん上手だね!美味しそう!」

(健太)「へへへ」

照れる健太くん。一生懸命が伝わってくる。

(夜藻技雨美)「よし、出来たね!」

(健太)「うん!出来た!守るくーん!」

ちょうど電話が終わった守さん。

(木下守)「どうした?」

(健太)「はい!サンドイッチ!おねぇちゃんと作ったの!イライラ虫いなくなるんだって!」

(木下守)「イライラ虫?」

(健太)「うん!これ食べたら退治できるっておねぇちゃんが言ったの!」

ちらっと私をみる守さん。

(木下守)「そうか、じゃぁみんなで食べるか」

(健太)「うん!僕お腹空いてたんだ!へへ」

美味しそうに頬ばる健太くん。しばらくするとお腹いっぱいになったからなのか、うとうとしはじめて、ついには寝てしまった健太くん。

(木下守)「気を使わせてしまったな」

(夜藻技雨美)「いえ、楽しかったですよ?ふふ」

すると突然抱きしめられた。ふわりと香る男性の香水。手が服の中に入ってきて胸に触れた。

(木下守)「すまない。止まらない」

手が後ろに回り下着がかいほうされた。私は抵抗しなかった。むしろ求めてしまった。もっと…と。

(野々田千恵美)「守さん!何を!何をなさってるんですか?!」

はっとした。私は慌てて乱れた服装を直した。

(木下守)「野々田には関係ない。」

(野々田千恵美)「結婚破棄もこの女が原因ですか?!」

(木下守)「千恵美!いい加減にしろ!親同士が勝手に決めてたことだろ?」

(野々田千恵美)「そんな…私は本気でした!」

涙を流す野々田さん。

(木下守)「すまない。君の気持ちには答えられない」

胸が苦しい。野々田さんはもっと苦しいはずだ。走って出て行ってしまった。

(夜藻技雨美)「私も今日はこれで失礼します。」

軽く頭を下げ部屋を出た。

それからは朝から夕方、夕方から夜まで働いた。健太くんと時間をつぶし、夕方からスーパーのレジ打ち。後から知った話し、野々田さんは会社を辞めたと聞いた。
守さんは、あれから触れることはなくなった。
これでいい。500万まで後少しで貯まる。そんなある日。

(山岡伸幸)「あめちゃん…久しぶり」

ちょうどレジが空いていた。

(夜藻技雨美)「伸幸さん」

(山岡伸幸)「君を抱きたい」

(夜藻技雨美)「ごめんなさい…私はもう…」

(山岡伸幸)「あの人が好きになった?俺はずっとあめちゃんが好きだったよ。すべてが好きだった。君の目に俺が映ってないことも知ってたけど、抱いてるときだけは幸せだったよ」

目の下にくま…寝てないの?

(夜藻技雨美)「ごめんなさい…伸幸さんのことは好き。でも違う。恋愛とは違うんです。苦しくならない、辛くならない、涙が出ない。でもある人には、その気持ちが現れるんです。ある人にはそばにいたら苦しくなるし涙もでるし、抱きしめたくなるし触れたくなる。」

(木下守)「それは俺のことか?」

(夜藻技雨美)「え?…」

守さん…

(山岡伸幸)「悔しいけど他の男を想いながら抱いたって虚しいだけ。終わりにしよう。あめちゃん、いままでありがとう。さよなら」

そう言って微笑んだ。弱々しく。

ごめんなさい…。

伸幸さん、ありがとう。

(夜藻技雨美)「守さん。好きです」

(健太)「僕もー!」

気がついたら足元に健太くん。

(夜藻技雨美)「ふふ、ありがとう。わたしも健太くん大好き!」

(木下守)「また明日から来てくれるよな?」

(夜藻技雨美)「はい!」

肌を重ねるだけが愛だとは限らない。

不器用な私と彼の恋愛事情。


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