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霊感少女と猫又~日常系 おすすめ小説


「ぬんぬんぬん♪ふ、ふふ~ん♪」

よくわからぬ鼻歌を歌いながら、一人の少女が桜の舞う河川敷を歩いていた。
近くの高校の制服を着ているので、そこの生徒なのだろう。

色素の薄い髪を肩までのボブにして、その髪が風にたなびくのに合わせて、首が左右に揺れる。

「今帰りかい? おかえり」

「ただいま!」
少女は振り返り、声を掛けてきた年配のご婦人に挨拶をした。

「何だかご機嫌だねぇ?」

「うん! 帰ったらプリンが待ってるの!」
少女はにこにこと笑顔を輝かせながら、頷く。

「そうかい。気を付けてお帰りよ」

「はーい!」

ご婦人に手を振って、少女は再び帰路についた。


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そして数歩足を踏み出したところで、「あれ?」と首を傾げて、後ろを振り返る。
そこには先ほどのご婦人はいなかった。

道は一本道だし、見通しのいい河川敷である。この一瞬で見当たらなくなることはない。
少女は、少し考えた後、目をパチクリとしてから、ぽてぽてと歩き出した。

(全然気づかなかったなー)
歩きながら少女は回想する。

伊達紅茶。16歳。

紅茶は子供のころから霊感が極めて高かった。

紅茶の家は戦国武将で有名な伊達政宗の直系であり、霊感が高い者が生まれやすい。
両親はそこまで高くはないが、祖母がとても強かったため、紅茶にもそれが遺伝されたのだ。

幼いころから幽霊が見えて、しかも生きている人と変わりがない。

触ることはできないが、普通に会話が成り立つため、気付かずに話してしまう。しかし周りの人には見えていないので、一人で何もない空間に話していることになる。

それが原因で友達が減ったこともあったが、紅茶は元来天然な性格のため、霊感が強いという話をすれば、大抵の子は不思議そうな顔をしながらも受け入れてくれた。

今まで悪霊に取り付かれたこともないので、紅茶は特に気にしていなかった。
元来、ぽけぽけとした天然な性格なのだ。

大事な事なので二回言う。

「ただいまー」
家に帰りついた紅茶は玄関を開けてリビングへ向かいながら、声をあげた。

「紅ちゃん、おかえり」
キッチンでは母である、真澄がお茶を淹れていた。

紅茶にそっくりな容姿に腰までのウェーブかかった茶髪が特徴の真澄は、ロングスカートにピンク色のエプロンをつけている。

「プリン!」
「ふふふ。はいはい。まずは着替えて、手を洗ってね」

「はーい」

目を輝かせて真澄の手元をのぞき込む紅茶に、真澄は笑いかけた。

紅茶は返事をしながら、洗面所に行き、服を制服から白いパーカーとスカートに着替えた。

再びリビングに行くと、急須で緑茶を湯呑に注いでいる真澄が目に入り、首を傾げた。

「あれ? お母さん。プリンに緑茶なの?」

「え? あらあら。おばあちゃんへのお茶なのに、なんで二人分注いだのかしら」

真澄も紅茶に負けず劣らず天然である。というか、真澄の天然が紅茶に遺伝されたのだ。

「紅ちゃん、ママは紅茶を淹れ直すからおばあちゃんに一つ持って行ってくれない?」

「いいよー。慌てないで淹れてねー。あ、紅茶はアールグレイがいいなー」

「はーい」

お盆に湯呑を一つ載せて、紅茶は和室に向かった。

そこには仏壇があり、黒髪を綺麗にまとめて着物姿の女性がきりっとした表情で遺影に写っている。

「おばあちゃーん。ただいま。お茶どうぞー」

紅茶は湯呑を仏壇に置くと、正座をして手を合わせた。

紅茶が大好きな祖母はつい最近亡くなった。霊感が強く、除霊もできた祖母だが、病には勝てなかったようだ。

『紅。いいかい? もし、霊に襲われたり、憑りつかれたり、怖い思いをしたらこのお守りに助けてって言ってごらん? きっと大丈夫だからね』

『うん! ありがと、おばあちゃん!』

紅茶が霊が見えると祖母に相談した時に、祖母からお守りをもらった。

外見は普通のお守りだが、よくある『交通安全』だの『家内安全』だのといった文字は書いていない。祖母の手作りのようだった。
小学生になった時にもらい、今まで使わずにいるが、いつも肌身離さず首から下げていた。

「アールグレイ、できたわよー」

「はーい」

真澄の声に返事をして、紅茶は和室から出ていった。

その日の夜、父の政幸が帰ってきて夕食のハンバーグを食べた後の事。
無性に炭酸が飲みたくなった紅茶は近くの自販機に出かけて行った。

「一人で大丈夫か?」

「すぐ近くだし大丈夫―」

「気を付けるんだぞ」

「はーい」

政幸の声に返事をして、紅茶は街灯のある夜道をぽてぽてと歩いていく。

無事に自販機に辿り着き、目的の炭酸ジュースを買った帰り道。


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「ぬ?」

紅茶は前方に黒い靄が見えて、首を傾げて立ち止った。

「なに…?」

思わず声を上げると、その靄は人の形を作り、少しずつ近づいてくる。

「え? なに? なに?」

嫌な感じがする。肌がビリビリして体が震える。感じたことのない感覚だった。

やがて、黒い靄からぼそぼそと声が聞こえてくる。

『憎い。どうして私がこんな目に…憎い…恨めしい…憎い…』

(これは…悪霊!?)

祖母に聞いたことがある。悪霊に憑りつかれると、とり殺される。
紅茶は反射的に悪霊とは反対方向に走り出した。

(どうしようどうしようどうしよう。おばあちゃんみたいに除霊はできないし)

走りながら紅茶は考えを巡らせるが、何も浮かばない。
その間も悪霊との距離はどんどん詰まる。

(あ! そうだ!)

いよいよ足が疲れてきたとき、紅茶は祖母からのお守りの存在を思い出した。

「助けて!」

首にぶら下げてあるお守りを握って、祖母を一心に信じながら叫ぶ。

その時、お守りから白い光がはじけて、悪霊に向かっていった。

紅茶は立ち止り、振り返る。

白い光は悪霊の周りをぐるぐる回り、悪霊が苦しみはじめた。

「去れ!」

「ぐ、が、あああああああああああ」

白い光から鋭い声が飛ぶと、悪霊は断末魔の悲鳴をあげて消滅する。

あたりに静寂が戻ると、紅茶はへたりとその場に座り込んだ。

「こ、怖かった…」

「やれやれ。あれの孫とは思えんな」

「え?」

先ほどの白い光がすぅっと何かの形になり、白猫になった。
普通の猫と違うのは尾が二本あることだ。

「猫?」

「うむ。わしは猫又。咲妃の使い魔である」

咲妃というのは祖母の名前だ。

「おばあちゃんを知ってるの?」

猫又は自分の前足を舐めながら、頷く。

「如何にも。わしはお前が生まれる前から咲妃の使い魔だったのじゃからな」

どうやらこの猫又は平安時代から生きており、祖母が紅茶の年代の頃に、悪さをしていたところを退治されて、祖母の使い魔になったらしい。

「ほえー。おばあちゃんの若いころってどんな人だったの?」

「それよりもお前。わしにちっとも驚かんのか。話す猫じゃぞ。なんなら、話す猫又という妖怪じゃぞ」

なおも興味津々で聞いてくる紅茶に猫又は呆れたように言った。

「えー? でも、あなたからはさっきみたいな嫌な感じはしないし、おばあちゃんの使い魔ってことは、きっといい子でしょう?」

さっき悪さをして使い魔になったという話をしたばかりだというのに、紅茶は屈託のない笑顔を向けてくる。

そんな紅茶に肩の力が抜けた猫又は、俯いてため息を一つ着くと「まぁいい」と顔をあげた。

「お前が今まで悪霊に会ったことがなかった理由はわかるか?」

「ううん。初めて会ったからビックリした」

首を横に振る紅茶に猫又は頷く。

「そうであろうな。それは、咲妃のおかげじゃ。咲妃がお前に自分の霊感が移ってしまった故に、危険な目に合わぬよう、守っておったのじゃ」

「おばあちゃんが…」

猫又は紅茶に近づくと、前足で紅茶が握ったままだったお守りをさした。

「左様。その守り袋にわしを通して、自分の力をあたえ、言うなれば悪い物を寄せ付けない結界を張っておったのよ」

紅茶は手を開いて、お守りをじっと見ると祖母に思いをはせた。

「おばあちゃん…ありがとう」

「咲妃が亡くなり、その力も無くなった。だから、お前は悪霊に襲われたのだ。これからはわしがお前を守ってやろう」

「そうなの?」

「うむ。咲妃の遺言ゆえな」

「ありがとう」

得意げにする猫又を見て、ふわりと腕にまとわりついた二本の尾に触れると、紅茶はふにゃりと微笑んだ。

「そういえば猫又さん。名前はあるの?」

帰路についた紅茶は、自分の横を同じペースで歩く猫又に話しかける。

「わしは真白だ。咲妃がつけた」

「真白ちゃんかぁ。いい名前だね」

にっこりと笑いかけた紅茶だったが、真白はむっと眉間に皺をよせた。

「わしは雄じゃ!」

「えええええ? いいじゃん真白ちゃん!可愛いよ!」

「そういう問題でもないわ!咲妃といい、孫のお前といい!」

どうやら祖母にも同じように呼ばれていたらしい。

「可愛いんだからいいの!」

そんなことを言い合いながら、一人と一匹は家についた 。

「そういえば他の人には見えるの?」

「わしが見せようと思えば誰にでも見える」

「ほえー。凄いんだねぇ」

「わしが何年生きていると思っておる。力は強いのだ」

胸をはって誇らしげに言う真白に、素直に感心しながら紅茶は玄関を開けた。


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「ただいまー」

「おかえり。遅かったわね」

「何もなかったか?」

帰りが遅くなってしまったため、心配だったのだろう。両親とも玄関まで出迎えにきた。

「あら? その猫ちゃん…」

「久しぶりじゃの。真澄と小僧。息災か?」

真白の言葉に真澄は合点がいったように手をぽんっと打ち、政幸は眉間に皺をよせる。

「やっぱり! 真白さんね?」

「その呼び方はいい加減やめてくれ。真白さん」

「え? お父さんとお母さん、知り合いなの?」

一人置いてけぼりの紅茶が声をあげると、真白はひらりと玄関先から絨毯に上った。

「昔に会ったことがあるのだ。小僧に至っては生まれた時から知っている」

(だから、お父さんのことは小僧って呼ぶんだ。あのお父さんが小僧…)

警察官をしている父は厳格なイメージがあったが、その呼び方があまりに厳つい見た目とイメージに合わなくて紅茶は笑った。

自分の部屋に戻った紅茶は手に持っていたジュースを開けた。

「やっと飲める。炭酸抜けてないといいけど」

「そ、それは…!」

紅茶が一口ジュースを呷ると、床からそれを見上げていた真白が目を見開く。

「ん? コーラだよ?」

「わしにも寄越せ! わしはコーラが好物じゃ!」

「え!? 猫なのに!?」

キッチンから小さい器を持ってきて、コーラを注いでやると、真白は嬉しそうに飲み始めた。

(やっぱり猫又だから普通の猫とは全然違うんだろうなぁ)

そんな真白を見ながら、紅茶はどことなく納得して、自分もコーラを呷った のだった。

それから幾日が過ぎた。

「来ないで!あたし何もできないから!真白ちゃぁぁん!! 」

紅茶は学校帰りに、追ってくる悪霊から走って逃げていた。

「またか!」

どこからともなく現れた真白は紅茶の背後の悪霊に飛び掛かり、鋭い爪で引っ掻いた。

悪霊は悲鳴をあげて消え失せる。

「あ、ありがとう。真白ちゃん」

走って乱れた息を整えながら、礼を言う紅茶に真白はツカツカと歩み寄った。

「何回目だ紅茶! 毎日毎日毎日毎日!」

「ご、ごめんなさい」

実は紅茶はこうして毎日悪霊に追われる日々を過ごしている。
祖母の結界は極めて協力だったらしく、その結界が無くなったため、紅茶の霊媒体質が開花してしまったのだ。

真白は呼べば、必ず現れて助けてくれるのだが、紅茶自身も注意をしろと散々言われていた。

それにも関わらず、毎日このありさまなので真白は怒り心頭だ。

「むやみやたらに人に話しかけるな! 生きている人間とのちょっとした違和感を大事にしろ! そしてこの河川敷は霊が多いから近づくな! なぜまたこの道を通っているのだ、お前は!」

「あ…」

その言葉にハッとした。前半はよく言われているが、この河川敷に近づくなということはつい三日前に言われたことだ。

「わ、忘れてた…」

「忘れてたじゃない! いい加減にせんか! ぽけぽけと自分から危険に突っ込むでないわ!」

「はい…」

怒鳴られるたびに小さく肩を落とす紅茶を見て、溜飲が下がったのか真白は小さく息をつくと「まぁいい」と言って、紅茶に背を向けた。

「帰るぞ。今日のおやつはシュークリームだそうだ」

「シュークリーム!」

先ほどまで怒られたことも忘れて、紅茶は目を輝かせる。

「全くお前は…調子のいい奴じゃ」

「えへへー。甘い物は正義だよ!」

「意味がわからぬわ。お前は食い物とみれば、なんでも食うではないか」

「えー。真白ちゃんだってコーラ大好きじゃん」

そんなことを言い合いながら、夕日の中を一人と一匹は歩いて行った。

「明日もこの道を通ったら。引っ掻きの刑だからな」

「え! ひどい!」

                                     END


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