恋愛小説

プチプラスキンケアで彼氏キープ 綺麗な肌にする方法


窓から見える木の葉が色付き始めている。紅葉の見頃はまだまだ先、これから秋が深まっていくところだというのに、カフェの店内には大きなツリーが飾られ、色とりどりのオーナメントがぶら下げられていた。

「えっ、美香、彼氏できたの!?」

コーヒーが運ばれてきてから話そうと思っていたのだが、他に話すこともなく、注文を済ませてすぐに友人の愛理に打ち明けてしまった。

まあ、今日愛理をカフェに誘ったのはそれを報告するためだったので、遅かれ早かれ愛理のこの反応は見ることになっただろう。

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「クリスマスに、大晦日の年越しから正月の初詣、それからバレンタインと、イベント続くもんねぇ。冬に独り身じゃ寒さが身に染みるもん、彼氏できてよかったねぇ」

愛理はイベントを指折り数えながら言った。

「ありがとう」

「ホワイトデー直前にフラれないようにね」

「その冗談、笑えない」

「で、どんな人?」

私はスマホの画面を愛理に見せた。

「へ〜、なんか今までの彼氏とタイプ違くない?」

「見た目じゃないの。中身なの!」

目を大きく見せるメイク、小顔に見せるヘアスタイル、着痩せするコーディネート……これまで、恋人が欲しくて、あの手この手で着飾ってきた。そんな私に寄ってくる男性は、私の本当の姿を見て逃げ出す人ばかりだった。

何度もフラれているうちにトラウマになって、海に行って水着姿を見せることもできない、温泉旅行で素っぴんを見せることもできない。いつかありのままの私を受け入れてくれる男性と出会えるはずと信じていたけれど、そんな男性と出会うこともなく歳を重ねてしまい、ますます見た目に自信がなくなった。そんな時に出会ったのが知昭さんだった。

彼は、私の見た目ではなく中身が好きだと言ってくれた。私も、そんな彼の優しさに惹かれた。

「で、そのトモアキさん?とは、クリスマスどうやって過ごすの?」

「それが……行きたいと思ってたレストランの予約取れなくて、ウチで手料理を振る舞うことになったんだけど」

「いいじゃん、美香料理うまいし」

「ウチでごはん食べたらさ、そのあとって……」

丁度そこで、頼んでいたコーヒーが運ばれてきた。

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「……まあ、きっと、そういう流れになるよね」

「だよねぇ……」

良い香りの漂うコーヒーを口元に運び、一口飲んだ。

「やっぱり、お風呂あがりに化粧して出てきたら変?」

「そりゃあね。温泉行ってそのあと大広間でごはんとかなら、人前に出るし軽く化粧直すのも分かるけど、自分ちの風呂じゃねぇ」

体型とか、顔のパーツとか、様々なコンプレックスがある中で、私が一番気にしているのは素肌だった。小さな目はマツエクのおかげで素っぴんでも多少誤魔化せるが、素肌はそうもいかない。普段はファンデーションで隠しているこの毛穴たちを、どうしてくれようか。

「ねぇ、愛理は基礎化粧品、何使ってるの?」

「えぇ、私?!化粧品のことなら美香の方が詳しいでしょ」

愛理の言う通り、私はこの自信のない肌を隠すために、様々なファンデーションやコンシーラーを試してきた。デパートで高い化粧品に手を出したこともある。でも、素肌のきれいさで言えば、間違いなく愛理の方が美しかった。

「厚化粧してなくてその肌ってことは、元々がいいんでしょ。ねぇお願い、死活問題なの。彼に、肌の汚い女って思われたくないの!」

「そこまで言うなら……今度の休み、ウチに泊まりに来る?私いつも寝る前にケアしてるから、一緒にやってみる?」

二つ返事で誘いに乗った。クリスマスまでの約1か月で私のこの毛穴がきれいになるのなら、多少の出費は厭わない覚悟だが、さすがにエステサロンに通い詰めるほどのお金はない。私と収入が同じくらいであるはずの愛理がしている肌のケアなら、私にだってできるかもしれない、そう踏んでいた。

「もしもし、美香ちゃん?」

愛理の家に泊まる前日の夜に、知昭くんから電話が掛かってきた。荷造りしていた手を止め、声が聴こえる耳に神経を集中させる。

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「知昭くん、お仕事お疲れさま」

「ありがとう。突然なんだけど、明日の夜って空いてる?」

「あっ、明日は愛理と約束があって……」

そう答えながら、愛理に泊まる日を変更できないか頼んでみようと考えている自分がいた。

「そっか、仕事早く上がれそうだから、会えないかなって思ったんだけど、先約があるんだね」

「えっと、」

ちょっと愛理との予定を調整してみるね、と言いかけたところで、知昭くんが被せるように言ってきた。

「いいよいいよ、友達との予定優先してよ。彼氏ができたからって友達との約束すっぽかしてたら、大事な友達なくしちゃうもんな。俺、友達を大事にできるコ好きだからさ」

喉元まで出かかっていた言葉を、ぐっと飲みこんだ。じゃあ、俺はテレビでも見てごろごろしよっかな~、おやすみ~、というのんびりとした言葉に、おやすみと返した。

電話をかけてきてくれたことは嬉しいが、無理をしてでも会いたい、と思っているのは私だけなのだろうか。少しモヤモヤした気持ちを抱えながら、バッグに旅行用の歯ブラシを入れて、その日は眠りについた。

愛理の家について開口一番、昨夜の電話の内容を話した。

「なるほどねぇ。独り身の私には、のろけにしか聞こえないけどね」

「そんな。私は真剣に……」

「いいんじゃない、私が知る限り、暇さえあれば会おうとするカップルは長続きしてないよ。トモアキくんはさ、明日会えなくても、またいつでも会えるって思ってくれてるんでしょ。彼女なんだから」

愛理は、とりあえず荷物ここに置きなよと促し、洗面所へ案内してくれた。ごはんを済ませてから愛理の家へ来たので、あとは化粧を落として、お風呂に入って寝るだけだ。

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「さて、本題のスキンケアに入りましょうかね」

愛理はパンと手を打って、浴室内から運んできた化粧品を、洗面台の鏡の前に並べた。と言っても、3本しか出てこなかった。

「えっ、これだけ?」

再び浴室内に姿を消した愛理は、洗顔ネットを持って出てきた。

「クレンジングと、洗顔と、パック。私はいつもお風呂のついでに済ませちゃうんだけど、アパートのお風呂2人で入ったら狭いからさ。洗面所で顔洗ってパックまでやっちゃおう」

そう言う愛理にターバンを手渡されたので、それを受け取り髪が邪魔にならないよう顔に着けた。

「じゃ、まずはクレンジングね」

私が手のひらを差し出すと、愛理はその上に白っぽいジェル状のクレンジングを乗せた。

「オイルじゃないんだ」

「美香、オイルタイプ使ってるの?あれ、肌つっぱらない?」

うーん、少し引っ張られるような感じはするけど、オイルの方がすっきり落ちるし……と答えながら、ジェル状のクレンジングを頬やおでこに乗せていく。

愛理の指示通り、指先でくるくると肌の上を滑らせて、顔全体へ伸ばしていく。ジェルが透明になったら洗い流して良いそうだ。水がぬるま湯になったのを指先で確かめてから、ぱしゃぱしゃと顔にかけた。

「ねぇ、これ本当に落ちてる?」

なんだかすっきりしない。物足りない、という表現があっているだろうか。

「落ちてるよ。オイルタイプって確かにメイクがよく落ちるんだけど、肌に必要な油分まで一緒に落としちゃってるんだよね」

クレンジング後に肌がつっぱるのは、油分が足りないかららしい。言われてみれば、つっぱる感じはしない。それでいて、アイメイクやチークはしっかりと落ちていることが、鏡を見て確認できた。

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「じゃあ、次は洗顔ね」

愛理から渡された洗顔ネットを左手に持ち、右手を愛理の方に差し出すと、チューブから洗顔料を出してくれた。洗顔ネットを持ったまま左手で蛇口をひねり、右手の上に水を出そうとする私を、愛理が制止した。

「ちょ、ストップ!何する気?!」

「何って、水足した方が泡立ち良くなるから……」

「濡らすのは洗顔ネットだけで十分!ちょっと貸して」

私から洗顔ネットを取り上げると、私の右手から洗顔料をぬぐい取り、洗顔ネットにそれをつけてこすり始めた。みるみるうちに泡立っていく。もこもことした泡をネットから取り、私の手へ返してくれた。

絹のような、柔らかくてきめ細かい泡を頬へつける。手で顔をこすっちゃだめだよ、泡で洗うようにして、と言われたので、手のひらをゆっくりと、円を描くように動かして、そっと泡を滑らせていく。雲に顔をうずめたら、こんな感じだろうか。なんて考えているうちに顔全体に泡が行き渡ったので、ぬるま湯で泡を流す。

濡れた顔を上げると、愛理が乾いたタオルを手渡してくれた。ポンポンと水気を拭き取り頬に触れると、もちもちとした感触が心地よかった。

「あ~、指が吸いつく」

「でしょ。この洗顔、気持ちいいんだよね~」

「顔拭いちゃったけど、いいの?もう一つ……」

「ああ、これね。パックはね、洗顔後の清潔な肌に塗るんだけど、濡れてちゃだめなのよね。私はお風呂でクレンジングと洗顔して、軽く顔拭いたらこのパック塗って、湯船に入るんだけど……」

愛理の説明を聞き、パックの入ったチューブを受け取った私は、服を脱ぎ、髪を束ねて浴室へ入った。

体を洗い終え、濡れた手をタオルで拭き、チューブから手のひらへパックを出す。白いクリーム状のそれを、目の際を避けて顔全体へ伸ばしていく。まんべんなく塗れたことを鏡で確認すると、手についたパックを洗い流し、湯船に浸かった。

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愛理の説明通り、10分間パックしたまま湯船でリラックスしていると、脱衣所の方から愛理が声をかけてきた。

「お風呂出たら、すぐに化粧水と美容液つけてね。洗面台に置いとくねー!」

「うん、ありがとう!」

じわじわと汗をかき始め、パックが流れ落ちてしまわないかと心配になったところで10分が経過した。

シャワーでよく流し、髪も洗ってお風呂から上がると、愛理が言っていた化粧水と美容液が置いてあった。化粧水を手に取り、頬からおでこへと、顔全体をハンドプレスする。

「おお……」

自分の肌とは思えないもっちりとした感触に、思わず感嘆の声を上げてしまった。

鏡を見ると、パックの効果か毛穴の黒ずみがなくなり、肌が明るくなった気がする。仕上げに美容液もつけて、着替えを済ませるとすぐに愛理の待つ部屋へ向かった。

「どうだった?」

扉の開く音に気付いた愛理が、こちらを振り向きながら聞いた。

「すごい!しっとりするっていうのかな、なんかほっぺがもちもちで、肌が指に吸いついてくるの!!」

興奮気味で感想を伝えると、愛理が笑いながら「それはよかった」と言った。

「今まで、メイク落としはオイルタイプだったし、化粧水もさっぱり系だったし……愛理と真逆のモノ使ってた」

「きっと美香は、必要な油分まで落としちゃった上に、保湿がしっかりできてなくて、肌が乾燥しちゃってたんだね。私が使ってる化粧水は、保湿が売りなんだ。乳液なしでも、しっとりするでしょ?」

「うん。これ、どこで売ってるの?」

私は買う気マンマンだった。これを1か月続けたら、知昭くんの前で自信をもって素っぴんになれる、そう確信していた。

愛理はスマホを取り出し、「私はネットで買ってるんだけど」と見せてくれたが、想像していた値段よりはるかに安かった。

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「もっとするかと思った」

「化粧品って、高ければいいってものじゃないと思うんだよね。そりゃ、高いものはそれなりに良いものなんだろうけど……それよりも、自分の肌の状態にあってるもの選ぶのが大事かな、っていうのが自論」

「うん……愛理の言う通りかも」

妙に納得した私は、その夜のうちにスマホで基礎化粧品一式を購入した。まだ買っただけで届いてもいないのだが、悩みがひとつ解決し、肩の荷が下りたような気分だった。

愛理のベッドの隣に来客用の布団を敷き、部屋の電気を消して、クリスマス当日どんな料理を作ろうかあれこれ話をした。

愛理は、それは気合入れすぎ、とか、2人で食べきれるの?とか率直な意見を聞かせてくれ、「もし料理の練習するなら、私に試食させてよね。じゃ、おやすみ」と言って、眠りについた。私も、愛理の後を追うように目を閉じた。

3日もしないうちに、注文した化粧品が届いた。さっそく、その日の夜から使い始めた。

クレンジングは、指の腹で優しく伸ばしていく。洗顔料は水で薄めず、もっちりとした泡を作る。顔の水気を拭き取ってから、パックを塗る……。

愛理から教えてもらったことを思い出しながら、丁寧に肌のケアをしていく。パックを塗って湯船に浸かりながら、ふと、時間をかけて肌の手入れをするのって、最高の贅沢なのでは?と思った。

出産後の友人に会いに行ったとき、育児の中でもお風呂がとても大変で、風邪を引かないようにすぐに着替えさせなければならないし、子どもの肌に保湿クリームを塗っているうちに自分の肌がかぴかぴになると嘆いていたのだ。

私は子どもはおろか結婚もまだだから想像もできないが、いつか知昭くんと結婚して、子どもを授かるなんて未来もあるのだろうか……と妄想しているうちに10分が経ったので、パックを洗い流し、お風呂から出て化粧水と美容液をつけた。

ああ、このもちもち感。やっぱり贅沢だな。この肌に触れるだけで、1日の疲れが癒される気がする。これなら、毎日続けられそうだ。

クリスマス当日が楽しみで仕方がない。素っぴんを見せることが不安だったあの頃の私と、まるで別人だ。今は、早く知昭くんに触れてほしいとさえ思っている。知昭くんの手が、指が、私の頬に触れた時。彼は何と言うだろうか。想像しただけで高鳴る胸を、深呼吸をして静めながら、ゆっくりと瞼を閉じ眠りについた。

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