女性の身だしなみのひとつとして、時計は注目されるべきファッションアイテムだと思う。
最近では、スマートフォンなどで時間のチェックもできるため、あまり腕時計は着けないという女性も増えてきているが、腕時計を身につけている女性は「時間の管理がきちんとできる」イメージがもてるため、仕事ができるキャリアウーマンのような印象を与えたり、自分に似合うお洒落な腕時計をつけていれば、その人のファッションセンスも魅力のひとつとして発信できたりする効果もあり、良いことづくしと思うのだ。
やはり30代、40代のオトナな社会人女性としては、きちんとした時計を身につけておくべきという考えで、生きてきた。
そして時計のみならず、メイクもファッションも、やはり年相応の、自分に相応しいものを選ぶ必要がある。
TPOをわきまえて、フォーマルなシーンや、カジュアルに遊びを取り入れるようなシーンや、ビシッと決めたいビジネスシーンなどで、時計を使い分けたいと思っていた。
30代になり、キャリアを積んできて、20代までとは違った大人らしさを演出したいと思う今日この頃、私は時計を新調しようかな、と考えはじめていた。
20代までは日本製の安定感のあるブランド、セイコーの時計を身につけていた。
それだって今つけていても全く遜色なく、ビジネスの場でも馴染んでくれるし、ちょっとお洒落して友人や恋人と食事に行くようなシーンでもつけられて、重宝している。
決して不満不足があるわけではない。
ただ、金銭的にも余裕が出てきて、心機一転という意味も込めて、私の30代を彩ってくれる新しい時計を探したくなったのだ。
もうひとつ、これは大学生の時に旅行先で買った可愛らしいチープな時計も持っていた。
東南アジアをバックパックで巡っていた時に買ったのだ。どこの国で買ったかも忘れてしまったが、他では見かけないような独特なデザインで気に入っている。
帰国してからも、遊びに行くような時に愛用していて、壊れても直して、電池が切れたら交換して、大事に使っていた。
これはこれで味があって良かったが、もういい加減くたびれてきたというのもあり、カジュアル向けの時計も新調したかった。
このようなノンブランドで個性的な時計を探しても良いかな、とは思ったが、それはあくまでも「遊び」の範疇のことで、やはり常に人の目につく腕時計で、しかも良い年齢になった大人としては、やはりブランドものの「良い時計」を身につけておくのが相応しいかな、と思った。
ノンブランドを否定するわけではない。これはこれで、気に入ったものが見つかれば、手に入れて、それをつけていくに相応しい場につけていけば良い。
私はただ、フォーマル、ビジネス用のものと、カジュアルなシーンでもつけられるものの、2つのブランド腕時計を自分のものとして持っておき、TPOに合わせて使い分けられたら良いな、と純粋にそう思っただけなのだ。
人生のうち、いくつかは本当に良いものを手にするという事が必要だと思い、そのタイミングに、まさに今、30代になった今が相応しいと思ったのである。
30代、40代の大人の女性に人気の時計ブランドは、群を抜いてカルティエらしい。
フランスの高級ブランドで、レディース腕時計のお値段は、なんと35万円から。
「から」というのがポイントで、高価なものは100万円をゆうに超えるという。
本当に「一生もの」として購入する感覚だろう。
ひとまず、大人の女性たちの憧れの的であるカルティエに、レディース腕時計を見に行くことにした。
「タンク」というスクエア型の腕時計が目を引いた。モダンでスタイリッシュなデザインは、落ち着いた大人の女性を演出するに十分な魅力を備えていて、オフィスでもつけられるし、プライベートでも活躍してくれそうな雰囲気だった。
同じくカルティエの人気の腕時計として「ミスパシャ」というものを紹介してもらったが、これはこれで、小さなラウンドが可愛らしくもあり、大人っぽくも見える不思議なデザインで、こちらもシーンを選ばずにフェミニンさを演出してくれそうなものだった。
やはり世界最高峰は違うな、と思いながらも、値段を見るとさすがにちょっと腰が引けてしまう。
「一生もの」と覚悟を決めれば十分手は出るのだが、その「一生もの」の逸品に出会うまでは、他にも色々見てみようと思った。
日本の時計ブランドも黙ってはいない。
私が愛用しているセイコーの時計でも、大人の女性向けに販売されている「ルキア」というブランドは、とてもフェミニンで、かつ甘すぎず、お洒落なラインナップだった。
チタン製で軽量かつ、金属アレルギーが出にくいため、デリケート肌をもつ女性も安心してつけられる。また、ソーラー電波修正の機能がついているため、正確な時間を教えてくれる。私はトノー型のデザインが気に入った。
国産ブランドでいえば、シチズンも負けてはいない。
文字盤で遊び心を発揮している可愛らしいデザインの「クロスシー」という時計が、なかなか良かった。
オフィスでもカジュアルでも、どちらでも使えるようなマルチな雰囲気だった。
セイコーもシチズンも、高品質な国産ブランドだが、お値段は数万円程度のリーズナブルなものが多く、手が届く範囲でお洒落を楽しむにはピッタリだった。
でも私は、既にセイコーの腕時計を持っているので、気分を変えるとなると、やはり外国のブランドが良いかな、と思わなくもなかった。
世界最高峰の時計といえば、やはりスイスだろうか。
ロレックスをはじめ、緻密で精巧な時計ブランドが軒を連ねるが、女性目線で見てみると、オメガの「コンステレーション」という時計がなかなか良いのでは、と感じた。品格があり、オフィスに最適という印象だった。
お値段としては25万円程度から、という事で、やはり予想通りかなりのお値段だが、それに見合っただけの質である事は間違いない。
同じくヨーロッパでは、イタリアの高級ブランド、ブルガリの「ビーゼロワン」シリーズが気に入った。
値は張るが、デザインがとにかく良い。他にはないデザインで、ステンレス製のバングルやセラミックのリングを使ったデザインは、絶対に人目を引くと思ったし、普通の革のバンドのものもワンランク上のカジュアルを演出するのにとても良いと感じられた。
ブルガリブランドだけあって、35万円程度から、という事で、やはり高いなぁという印象だが、一生ものとしては買う価値が十二分にあるだろう。
北欧にまで目を移すと、かなりリーズナブルで可愛らしいデザインの時計を見つける事ができる。
それがスウェーデンのダニエルウェリントンだ。3万円未満で、お洒落でハイセンスな腕時計を購入する事ができる。
「クラシック」と名付けられた時計はカジュアルシーンにピッタリなイメージで、ビッグフェイスの40mmもある文字盤が、ゴロッとしていて、レトロな雰囲気で可愛らしい。
「ダッパー」はフォーマルなシーンでも活躍してくれそうな、シックで落ち着いた雰囲気だった。
アメリカだって負けてはいない。
ハミルトンブランドの「レディ ハミルトン」は15万円程度のお値段ではあるが、ストーンがとてもラグジュアリーな雰囲気で輝いていて、まるでジュエリーのような時計だ。
ドレスにもピッタリ合うので、結婚式の披露宴など、フォーマルなシーンには文句なしの逸品だ。
色々見てみると、実に個性豊かなブランド時計が世に出ているかという事がよく分かった。
値段の触れ幅も、ものすごい。安いものは、きちんとしたブランドでありながら、数万円で手に入れる事ができて、高いものに関しては、上を見ればキリがない。
さすがに100万円もするような超高級時計は買えないし、買うつもりもなかったが、正直、レディハミルトンの15万円のキラキラジュエリー時計ならば、手が出ると思っている自分がいた。
数万円でハイセンスな時計もなかなか魅力的で、ダニエルウェリントンのクラシックなどは、普段使いのカジュアルシーンなんかに良いかもしれない、と思った。
こういう比較的リーズナブルな時計をカジュアル用に、それから、10万円台の高級時計をフォーマルシーンやビジネスシーンで使えるように、そんなバランスで購入しようかな、と考え始めた。
なぜなら、やはりフォーマルな場、それからビジネスシーンでは、自分がどう見られるか、どのような印象を相手に与えるかというのが重要になってくるからだ。
良い腕時計を身につけていれば、高貴で教養高く、またセンスも良い女性として見てもらえるだろうし、上流階級の人々と付き合うにも、引けをとらない。そして、そういった方と関係ができると、良い縁がたくさん舞い込んできて、セレブな生活が送れるようになるかもしれない。
そんな期待も込めて、大事なシーンには、より良い時計を買おうと思った。
予算は2本合わせて30万円。
例えば7万と23万や、3万と27万、11万と19万など、30万円予算を取っておけば、納得の組み合わせで買い物ができるかな、と思った。もちろんこれよりも安くなるなら御の字だし、本当に、本当に気に入って、どうしても予算オーバーしてしまうようならば、それも買えるほどの金銭的な余裕はあった。
知人にこの話をしてみたら「え!?時計に!そんなに!!」と驚いていた。
その知人はそもそも腕時計をするタイプではなく、ただ、たまにスマートフォンのチェックが出来ない中で時間を気にしなければならないような仕事が入ることがあるらしく、そういう時には腕時計をするのだが、全くこだわりがないため、ノンブランドの3,000円しないような腕時計を使っていた。
それをどうこう言うわけではない。
実際のところ、彼女は彼女でセンスがよく、数千円の時計にしてはスタイリッシュで、シーンを選ばずに使えそうなセンスの良いものを持っていた。
そして、彼女は旅行が好きで、年に最低でも1回は海外旅行へ行っていた。
彼女にとって30万円は「ヨーロッパ旅行に行っても余る」という金額なのだ。
「そういう海外ブランドの時計って、やっぱり現地で買った方が安いんじゃないの?」
ふいに彼女がそう言った。
「だったら、旅行で現地まで行って、そこで買った方が良いじゃん」
確かにごもっともだとは思うが、現地まで行く、その旅行代があまりにも高すぎる。
おそらく彼女の中では、メインは旅行、メインは観光、ついでに時計も買ってくる、というイメージだったのだろう。いかにも旅行好きの彼女らしい。
しかし私の目的は旅行ではなく、時計を買うことなのだ。
わざわざ現地まで行かずに、良い時計を手に入れられるならば、付加価値分のお代は払っても構わない。
そう伝えると「分からないなぁ」と口を尖らせていたが、「ま、本人が納得してれば良いか」と、一応認めてはくれた。
第一私はまだ、どこの国のブランドにするか決めていないのだ。
そんな状態で「現地」に飛ぶわけにはいかない。「現地」がどこになるかも分かっていないのだから。
私は自分が納得いくまで、そして予算の範囲内で、じっくりと時計を選んだ。
デザインと、それから自分に似合うかどうか、そこを重視した。
機能性は二の次で、別に何か特殊な機能が付いている必要は全く無かった。時間が確認できて、お洒落としての役目を果たす事、それが、私が腕時計に求める条件だった。
店舗ではスタッフが様々な相談に乗ってくれて、試着させてくれたり、こんなシーンで使えるとか、意外とこういう服とも合うとか、様々な意見を聞かせてくれた。
そして、私は、2つ、異なるブランドで、気に入った時計を入手した。
1つはカジュアルなシーンで楽しんで使えそうな1本。かなりリーズナブルで助かった。しかし全然安っぽく見えないので、大人な女性には嬉しい限りだった。
もう1つは、ビジネスシーンでもフォーマルな場でも、パンツスタイルでもスカートでも合わせやすい、シンプルで、それでいてスタイリッシュなデザインの時計を選んだ。
こちらは結構なお値段だったが、一生大事に使うというつもりで購入した。
結果30万の予算は、超リーズナブルなカジュアル腕時計がカバーしてくれたおかげで、20万と少しでおさまった。
それでも高価な買い物をしたことに違いは無い。私は、新しく迎え入れた時計を大切にしようと心に決めた。
それから、新しい時計を身につけて外へ出るたびにワクワクしたし、自然と背筋がしゃんと伸びて印象も明るくなったように思えた。
「最近生き生きしてるね」と上司からもほめられ、年齢とともに誘われるようになっただけかもしれないが、今まで参加したことがなかったような、上流階級の人たちの集まりに、会社役員などから呼ばれるようになった。
これも時計の効果かな、と思い、私はひとりニッコリと笑った。