恋愛小説

恋した相手は芸能人~短編恋愛小説


“お前としててもつまんねぇ、俺達終わりにしよう”

したいときだけ呼び出してくる彼に嫌気がさしていた。だからこれでいい。でも、最低な彼氏だったのに…涙がこぼれた。あんな彼氏だったけど好きだった。


スポンサーリンク




(香川素子)「いらっしゃいませ」

香川素子。22歳。フリーター。コンビニで働いている。代わり映えのない日々を繰り返す毎日。黒縁眼鏡にストレートの長い髪を後ろに束ねている。

(外打春希)「今日暇ですね」

(香川素子)「そうだね、でも暇だからってさぼらないでね」

(外打春希)「そんなことしませんよー。たぶん」

そう言って目を細めた彼は外打春希。19歳。後輩。黒髪の短髪、さわやかで誰にたいしても優しい対応ができる。

(外打春希)「あ、今日も来ましたね。弓谷正人」

(香川素子)「はいはい、そんなことより仕事しなさい」

(外打春希)「はーい」

弓谷正人。芸能人。ここ数ヵ月前から見かけるようになった。今、CMやドラマに話題の俳優さん。珈琲とメロンパンをいつも買っていく。お釣りを渡すさいに微かに触れる指に鼓動がうるさく身体中に響き渡る。でも、平常心を演じきる。想いを寄せても叶わない夢だもの。

そんなある日、思いもよらない出来事が起きた。

翌朝

(香川素子)「いらっしゃいませ」

弓谷正人…今日もきっとメロンパンなんだろうなぁ。

(世堅守)「正人さん、またメロンパンですかー?」

あれ、一緒にいる人見たことある…誰だったけ。

(世堅守)「ねぇねぇ、おねぇさん」

え?私? 突然話しかけられて困惑していると

(世堅守)「これとこれだと、どっちが美味しい?」

2つのパンを持って聞いてくる男の人。

(香川素子)「えっと…人気があるのはそちらですね、私も個人的に好きです。」

そう言って微笑んだ。

(世堅守)「正人さんの言った通りだ…美しい」

(香川素子)「え?」

(弓谷正人)「守」

(世堅守)「あ、すみません。じゃぁこれ1つ」

(香川素子)「はい、ありがとうございます」

お釣りを渡したさいにレシートに

(世堅守)「ペン貸してくれる?」

(香川素子)「あ、はい」

走り書きに何かを書いていた。

(世堅守)「これ番号、今日仕事終わったら連絡ちょうだい待ってるから」

そう言ってにかっと笑った。あ、思い出した。世堅守。若い子に人気の俳優さんだ。確か二十歳だったかな。

(弓谷正人)「すまない、突然」

(香川素子)「いえ」

今私、弓谷正人と話してる…。低い落ち着いた声。黒髪に眼鏡。切れ長の瞳。世堅守は可愛い部類。茶髪に緩いパーマ。いろんな人から可愛がられるタイプかな。

うーん、どうしたらいいのだろう…。レシートを見つめながら考えていた。

仕事終わり

(外打春希)「香川さん上がりですか?」

(香川素子)「うん、外打くんこれからだよね、さぼらないようにね」

(外打春希)「わかってますって、お疲れ様です。」

帰宅

さて…レシートを見つめる。このまま無視するのももし、明日また来たとき気まずいよね。思いきって電話をかけた。

「はい」

あれ…番号間違えた?

(香川素子)「あ、あの、先程コンビニで番号…」

(弓谷正人)「ああ、先ほどは失礼した。弓谷だ。」

え、弓谷正人?

(弓谷正人)「明日も仕事か?」

(香川素子)「は、はい」

頭が追いつかない。この番号、弓谷…さんの?

(弓谷正人)「何時上がりだ」

(香川素子)「夕方の4時です。」

(弓谷正人)「そうか、じゃぁ4時半にお茶しよう、先に行って待ってる。それじゃぁ」

そう言って一方的に電話を切られた。

なに、お茶?え?

この日私は眠れなかった。

翌朝コンビニ

(香川素子)「いらっしゃいませ」

(外打春希)「いらっしゃいませ~」

(香川素子)「真面目に」

(外打春希)「はーい」

あ、弓谷さん…今日は珈琲だけだ。

レジの目の前で

(弓谷正人)「三丁目の角のパンケーキ屋」

(香川素子)「え?」

(弓谷正人)「店の場所いい忘れてたから、じゃぁそこで」

それだけ言うと何もなかったかのように背を向けて歩いてコンビニを出ていった。

(外打春希)「今、何か話してました?」

(香川素子)「ううん、何も話してないよ」

(外打春希)「ふーん」

納得いかない様子の外打くん。私には気にする余裕はなかった。

4時15分。一応私も女なのだと思う。メイク道工も持ってきてるんだもの。10分で仕上げてしまおう。髪も軽く巻いてきた。束ねていた髪をほどく。

…良かった。まだ巻きかかってる

10分後。なんとか間に合った。

えっと確か、3丁目の角って言ってたよね。

パンケーキ屋…あった。

こじんまりとした小さなお店。中には入るとお客さんはほとんどいない。珈琲の香りが広がる。回りを見渡す。…いた。

弓谷さん。珈琲飲みながらパンケーキ食べてる。やっぱり弓谷さんって甘党?

(オーナー)「いらっしゃい、なににします?」

(香川素子)「えっと彼と同じものを」

(オーナー)「はいよ」

若い男の人。見たことあるような…

(やす)「正人、豆落とすからパンケーキよろしく」

(弓谷正人)「…やすさん、おれまだ食べてるんですが」

やす?あ、

(香川素子)「もしかしてモデルのyasuさんですか?」

(やす)「よく、気づいたな、もう昔の話だ」

そう、雑誌の表紙にも載ったことのある人。でも、ある日突然モデルの世界から消えた。

(弓谷正人)「座ってて、作って来るから」

(香川素子)「あ、あの」

(弓谷正人)「大丈夫だ、ここでバイトしたことがあるから、腕には自信ある」

そう言って目を細めた。

(香川素子)「は、はい。待ってます。」

私、弓谷さんのファンに知られたら殺されちゃうんじゃないだろうか。

(やす)「はい、珈琲。砂糖とかいる?」

(香川素子)「いえ、私、ブラックが好きなので何もいれないんです。」

(やす)「そうか!そうだよな!」

(香川素子)「味と風味を楽しむのが好きで」

(やす)「うんうん、おじょうさん分かってるな!」

(弓谷正人)「砂糖とミルク入りですみません。できた。パンケーキ」

運ばれてきたのは

(香川素子)「ふわふわ…美味しそう」

視線がいたい。二人の。

(やす)「食べないのか?」

(香川素子)「お二人とも、そんなにじっと見られると食べずらいです」

(やす)「はは、それもそうか!すまん!気軽に食べてくれ。」

そう言ってカウンターに戻っていった。

私はホークをさして一口サイズにし、口にはこんだ。

(香川素子)「弓谷さん」

(弓谷正人)「どうした?」

なぜか不安げな弓谷さんに

(香川素子)「どうしよう、今まで食べた中で一番美味しいです」

そう言って自然と笑顔がこぼれた。

(弓谷正人)「お前は子犬みたいだな。髪型もいつもと違ってふわふわだな、触れたくなる」

画面に映る彼ではなく今目の前にいる彼は色っぽくって優しい瞳で私を捕らえていて、鼓動が早く苦しい。

私は…彼を好きになってしまった。

(弓谷正人)「また電話していいか?」

(香川素子)「はい」

(弓谷正人)「名前は香川素子だよな?登録の名前通りであってるか?」

(香川素子)「はい、合ってます」

(弓谷正人)「素子、また連絡する。これから撮影があるんだ。すまない。」

(香川素子)「いえ、楽しかったです。ありがとうございました。お仕事頑張ってください。」

(弓谷正人)「ありがとう、じゃぁ」

カラン。しまったドアを見つめた

(やす)「青春だねー、いや、あいつはもういい歳だから青春ではないな」

(香川素子)「ふふ」

私が笑うと突然静まりかえった。

(やす)「おじょうさん笑うと雰囲気変わるな。いい意味でな!」

そう言ってにかっと笑うやすさん。ここのお店居心地いい。また来たいな。


スポンサーリンク




帰宅

夜お風呂から上がり、テレビを見ていると電話がなった。弓谷さんからだ。

(香川素子)「もしもし」

(弓谷正人)「今電話してて大丈夫か?」

(香川素子)「はい、お仕事終わったんですか?」

(弓谷正人)「ああ、今日はな」

(香川素子)「お疲れ様でした」

(弓谷正人)「ああ、ありがとう」

このやり取りがなんだか新鮮で楽しい。

(香川素子)「明日もお仕事ですか?」

(弓谷正人)「いや、明日は休みだ、素子は?」

(香川素子)「私は朝からお昼までです。」

(弓谷正人)「そうか、ドライブでも行くか?予定入ってるか?」

ドライブ…

(香川素子)「コンビニの仕事以外は何もないです」

(弓谷正人)「じゃぁ昼過ぎからドライブ行くか、迎えに行く」

(香川素子)「分かりました。楽しみにしてます」

(弓谷正人)「夜分にすまなかった、おやすみ」

(香川素子)「いえ、おやすみなさい」

翌朝コンビニ

品物を補充していると後ろから声がした。

(世堅守)「ねぇねぇ」

(香川素子)振り返ると世堅守?

(香川素子)「世堅さん?」

(世堅守)「守でいいよ、騙す感じになってごめんね、てっきり俺の連絡先だと思ったでしょ?」

(香川素子)「はい、電話してビックリしました。」

(世堅守)「はは、そうだよね、ほんとごめんね。」

手を合わせる守くん。

(香川素子)「でもなんで?」

(世堅守)「だって正人さん一向に前に進む様子ないんだもん」

(香川素子)「え?」

(世堅守)「あ、ううん、気にしないで」

そう言って彼は私の鼻に人差し指をちょんと押した。

(外打春希)「香川さんさっきの人、彼氏ですか?」

(香川素子)「え?違うよ。お客さんだよ」

(外打春希)「香川さん変わりましたよね。綺麗になった。恋してます?」

(香川素子)「え…うん。」

(外打春希)「そうですか…」

今日の外打くん、様子がおかしい?

お昼

(香川素子)「お先に失礼します。お疲れ様です」

タイミングよくメールが届いた。

“裏口に車止めてる゛

もう来てるんだ。鼓動が早まる。平常心、平常心。

舞い上がってはいけない。相手は住む世界が違う。きっと気まぐれで私を誘っただけにすぎないのだから。

黒のワンボックスカーが止まっていた。

車に近づくと運転席の窓が開き

(弓谷正人)「乗って」

そう一言放つと窓は閉まった。私は言われた通り車に乗り込み、助手席に身を任せた。静かな車内。車の中は微かなミントの香りがした。すると弓谷さんが口を開いた。

(弓谷正人)「素子は俺がメロンパンが好きだと思ってるだろ」

(香川素子)「違うんですか?」

(弓谷正人)「嫌いではないが…覚えていないと思うが、確かにはまってた時期はあった。その時、売りきれていたときがあって素子、そのとき、俺が誰か気づいていなかったみたいだった。でもメロンパンをいつも買ってたことは覚えてくれてた。廃棄寸前の物を買って帰るつもりだったらしく、これでも良ければって内緒ですよって微笑みながらただでくれた。」

あ…思い出した。ずいぶん前だ。

(弓谷正人)「それから気になって仕方なかった。なぁ素子、俺を彼氏にしてくれないか」

(香川素子)「私つまらない女らしいです。特に身体を重ねたりとかの行為は…」

嬉しい。弓谷さんからの告白。でも、うまくいくだろうか。

私がダメにしてしまう気がする。

(弓谷正人)「そんなこと相手が俺なら大丈夫だ。なんなら今からでも確かめてみるか?」

目を細めて、頬笑む彼は優しい瞳をしていた。

(香川素子)「よろしくお願いします」

試してみたくなった。彼をもっと知りたくなった。

翌朝コンビニ

(外打春希)「うまくいったんですね。弓谷正人と」

(香川素子)「え?!何で知ってるの?!」

(外打春希)「俺の兄貴やすって言うんです。パンケーキ屋の。だから、つつぬけですよ」

維持悪く笑う外打くん

(香川素子)「嘘…」

(外打春希)「残念です。俺も好きだったのに」

(香川素子)「え?」

(外打春希)「何でもないです。仕事しますよ、香川さん。」

世間は狭い…




弓谷さんと付き合いはじめて二ヶ月が過ぎようとしていた。

(香川素子)「弓谷…さ…ん、もう、む…り」

(弓谷正人)「はぁ、はぁ…素子、締め付けすぎだ。元彼は本当にお前につまらない身体って言ったのか?信じらんねぇ。俺にとっては最高の女だ」

そう言って優しく私を抱き寄せた。肌と肌が触れる。温もりが落ち着く。

(香川素子)「そろそろバイト行かないと」

(弓谷正人)「もうそんな時間か、一人で大丈夫か?」

(香川素子)「うん、そのためのホテルだもの」

コンビニから一番近いホテル。芸能人と一般人。気軽に二人で出歩けないもの。

覚悟はしてた。少し寂しいけど仕方ない。

シャワーを浴びて準備をして彼に声をかける

(香川素子)「弓谷さん行ってきます」

(弓谷正人)「行ってほしくないけど行ってらっしゃい」

ふふ、弓谷さんは意外と可愛いことを言ってくれる。ホテルを出てコンビニへ向かった。

コンビニ

(香川素子)「おはようございます」

(外打春希)「あ、香川さんおはようございます!」

(香川素子)「おはよ、外打くん」

(外打春希)「順調に付き合ってるらしいですね、それと兄貴のところでも働くってほんとですか?」

嫌そうな顔してる?

(香川素子)「うん、短時間だけどね。ちなみに今日から、ふふ。楽しみ」

何故かため息をつく外打くん。

(外打春希)「あの店、芸能人が集まる穴場なんですよ。きっと見たくない光景とか絡まれたりとかしますよ。よく弓谷さん許してくれましたね」

(香川素子)「そうなの?やすさんに頼まれたの。人足りないからって。弓谷さんにはやすさんから言ってあるはずだよ」

(外打春希)「それ、騙されてます。弓谷さん知らないですよ。知ってたら止めてます」

(香川素子)「大丈夫だよ。たぶん」

またため息をつく外打くん。コンビニの仕事はいつもどおりこなしていった。

パンケーキ屋、出勤時間

カラン

(香川素子)「おはようございます!やすさん!今日からよろしくお願いします!」

(やす)「おう!待ってたよ、素子ちゃん。早速だけど接客よろしくな」

(香川素子)「はい!」

カラン

(香川素子)「いらっしゃいませ、何名様ですか?」

(男性客)「二人、奥の席がいいんだけど」

(香川素子)「かしこまりました。こちらへどうぞ」

(やす)「素子ちゃん完璧!」

親指をたてられた。

(香川素子)「ありがとうございます!でも緊張してます。ふふ」

2時間後、カラン

(香川素子)「いらっしゃいませ」

わぁ女優さんの佐々木美紀子だ。ショートカットでクールなイメージ。

(香川素子)「お席ご案内いたします。」

(佐々木美紀子)「待ってもう一人来るの」

(香川素子)「かしこまりました。2名様ですね。カウンターでお待ちしますか?」

(佐々木美紀子)「そうするわ」

カラン

(香川素子)「いらっしゃい…」

弓谷さん?

(佐々木美紀子)「正人遅いじゃない」

弓谷さんも目を見開いて私を見つめた。

(香川素子)「お席ご案内いたします」

ダメ、取り乱しちゃダメ、今は仕事をこなすの。

(佐々木美紀子)「最近全然連絡くれないから…新しい女でも出来たの?」

(弓谷正人)「そんなわけないだろ」

ダメ…聞きたくないのに聞こえてくる。分かってる。優しい嘘なのは。カウンターに戻った。

(やす)「現実は厳しくて残酷だろ?素子ちゃんはこれからも、正人を支えていけるか?」

わざとだったんだ。やすさんだからこそわかる現実を私にも伝えたかったんだ。

(香川素子)「私、本当は怖い。なにも知らない世界に弓谷さんはいるから。でも、それでも好きな気持ちは変わらないです。過去に何があったとしても今を、私を見てくれたらそれでいい。やすさんパンケーキ作ってもいいですか?」

(やす)「ああ、好きに使って」

(香川素子)「ありがとうございます」

わたしは弓谷さんみたいにふわふわには出来ないけど一生懸命作った。そしてチョコペンで文字を書いた。

(香川素子)「お待たせしました。パンケーキでございます」

(佐々木美紀子)「そんなの頼んでないわ」

(香川素子)「そちらの男性へサービスさせていただきました」

そう言って弓谷さんの目の前にパンケーキを置いた。

それを見た彼は微笑んで

(弓谷正人)「俺もだ、素子」

そう名前を呼んだ。

パンケーキに書いた文字は“愛してます”

私の彼氏は芸能人。


スポンサーリンク




コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です