恋愛小説

叶わなかった恋~短編恋愛小説


「夏原くん!これ受け取って」

高校の時、俺は彼女がいない時期がないほどモテていた。
バレンタインデー
モテ初めて3年目。高校最後のその日は憂鬱さから足取りは重く、朝からため息ばかり。

前を見ると近所の小学生二人組が元気そうに走っている、俺の父親が二人の父親の友人ということから産まれた時から知っている。

男の方、祐太郎の方は確実にゆずという女の子の幼馴染みが好きなのは明白だ。

二人は凄く可愛い。

祐太郎はいじめたくなるほど可愛くてたまにいじめている。
ゆずの方は多分将来はモデルとかになるんじゃないかというほど綺麗な顔立ちをしているのに、男の子顔負けの変顔も平気でするしいっつも祐太郎とばかり遊んでいるから心配だ。

手を繋いでぴょんぴょんと跳ねるランドセル二色を見てそんなにも足取りが軽やかなのは心底羨ましいと苦笑いを浮かべてまた重い足取りで学校へ向かう。


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突然、ダダダダダダダダダという凄まじい足音が背後で響き後ろを向くと
「涼ーっ!!!」
と叫ぶ俺の幼馴染はそのまま勢いよく俺に抱きつく。

「はる、痛いよ」
笑いながらごめんごめんという幼馴染み。

杉田遼、小学校入学してすぐ隣の席になり「りょうって私とおなじだね」とはるから話しかけてきてくれてそれからずっと小中高同じでずっと幼馴染み。

「りょう」と読めるけど本当は「はるか」だと知ったのは実は小学校卒業する時だったりする。

はるも俺が涼平だということは中学卒業の時に気づいたらしい、それまでは皆が間違えてると思っていた大いなるおバカさんだ。

そしてはるは俺が唯一男女の関係に持ち込めなかった無二の関係。

大事にしなければならないと分かっているけど、こいつが他の男と付き合うのはムカつく。
そしてこいつの彼氏である翔が俺の親友なのもムカつく、俺ん中でなんか黒いモンが嫌だって叫んでる。

だけど、こいつの幸せを俺が奪っていいわけなく。
仕方なく最近は失礼だとわかっていながら他の女性でぽっかり空いた穴を塞いでる。

教室に着いて自分の机に置かれた大量のチョコレート、教室中にその香りが充満して吐きそうだ。

一応全部貰うが、俺はチョコレートが大嫌い。そもそも甘いものが嫌いだから地獄のような日なのに、肝心のあいつからのチョコレートだけが無く、肩を下ろし先生に校門で貰った袋にチョコレートを詰めて席につく。

貰えなかった男達のため息と受け取ってもらえなかった女のため息で満たされるこの教室は負のオーラを放っている。
そして俺は貰えなかった男子からの視線が痛い。

視線の矛先であるチョコレートがたんまり入った袋をロッカーの中に無理無理しまう。
今日一日は針のむしろで過ごさねばならない、分かっているけれど嫌だなあ。と机に乗せたカバンに更に顔を乗せ埋める。

「贅沢だぞー。」
チラリ顔を上げ見ると手に雑なラッピングの恐らくチョコレートが入ってるであろう箱を持つ翔が立っていた。

少し苛立つ、俺が欲しいものをお前は持ってるのに何が贅沢だ。

「贅沢モンで悪かったな」
そう言うと徐に翔は俺の顔を持ち上げ手を取り教室の外にいる女の子達に無理やり手を振らせる。

一瞬で湧き上がる黄色い声、みんなは好いてくれるが俺には良さが全くわからない。もし本当に良さがあるのなら遼を振り向かせられるのに。
俺にはない魅力で遼を仕留める翔が、俺は心底羨ましい。

「HR始めるぞ〜席につけ〜」
先生の一声で蜘蛛の子を散らすように皆が席につく。

翔がいつに無く真面目な顔をしている事に気づいてはいたが軽々しく聞くことが出来ず、翔はまたなと言い残し自分のクラスの教室へ帰って行った。

HRが終わり1時限目、退屈な現代文の授業を無視してこっそりメッセージアプリを起動する。

《144件の通知があります》

授業を無視して、重要なメッセージだけを探す。知らない女の人から人伝に連絡が来たりは日常茶飯事だがら。

《はる 涼今日体調悪いの?大丈夫?》

遼から心配されるのは相当珍しい。てことは俺はそんなに落ち込んで見えたのか。

申し訳ないことした気分になった俺は先生のヅラが取れるという珍事件を無視し返信をカコカコと打った。

《RY0:ちょっと考え事してただけだから気にしないで》

送信した途端翔からもメッセージが飛んでくる。
《show:お前今日大丈夫か?はるも心配してたぞ》

《RY0:大丈夫。はるにも言ったけど考え事してただけだから、心配かけてごめん。》

謝ってるスタンプを送って携帯をサッと隠して周りに合わせて笑う。先生がハゲてることは入学した時に気づいてた。だって浮き上がってるからわかり易すぎ。
だけど空気読んで笑う。


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やっと、1時限目が終わるかという時。

《show:話したいことがある。だから三限目にでも抜けて来てくれ》

翔からやけに真面目な文章が送られてきた。
いつもならスタンプやら絵文字やらで色鮮やかになっているというのに文字だけの文面は真っ黒。

さてははると喧嘩したな。二人が付き合い出した2年の時から俺は二人が喧嘩したら仲裁に入るという最悪なポジションに付いていた。

俺への当てつけかのように起こる二人の喧嘩にぶち切れそうになったことも何度か。
思ったより俺は短気らしい。

2時限目でいいかとメッセージを送る。

すぐに「り」と、一文字だけの返信。

相当焦っているのだろうか。それとも面倒なのか、まあどちらかだろう。

「屋うえに来ちくれ」という誤字だらけのメッセージはきっと屋上に来て欲しいの意を表しているのだろう。
また喧嘩の仲裁かと階段を這うように上り翔の元へ急ぐ。

屋上の立ち入り禁止の注意書きがついた棒のような障害物を避けて屋上に出向くと、翔がなにやら重い表情で俺に向かい、

「はると別れることになった。」

「…は?」

俺はあまりに衝撃的なその言葉に開いた口が塞がらなかった。
続けて翔は遼と何故そんなことになったのかを話してくれた。

遼は学校を辞めるらしい。

あまりに突然で、突拍子もないその話に俺は初め二人で俺を騙してるんだろうと考えていた。

何度も翔に聞いた。俺を騙してるんだろ?って。
だけど翔は続ける。

「アイツ明日には居なくなることずっとみんなに隠してたんだよ。だけど俺とは付き合ってるからって、今朝これくれた時に明かしてくれたんだ。」

手にぶら下げた雑なラッピングの箱、やっぱりこれは遼からのチョコレートなのか。
そんなことより俺が引っかかったのは付き合ってるから翔には明かしたということ。

なら遼何で俺には明かさないんだよ。俺は遼をちっちゃい時から知ってる。こいつよりもずっと前から一緒に居る。
それなのに何で俺だけが蚊帳の外なんだよ。

俺の中で怒りよりも悲しみが勝った。
俺はちょっと前に知り合ったばかりの翔より話しにくいのか、と。

「…遼にとって俺はそんなもんかよってさ。俺、なんかショックで、付き合ってた期間はなんだったんだっつー」

翔が言うセリフ一個一個が俺の脳の奥底に響く。なんとも言えないその不快な感覚に吐き気がした。

「アイツ結婚すんだってさー。だったら初めから付き合うなよ。無駄に期待させんなっつの」

無駄な期待、そう小さく呟く翔にいつに無く腹が立ち、つい言いそうになった言葉を寸前で飲み込んだ。

“そうじゃないだろ”

落ち着いて息を吸って、怒る言葉達を沈める。

遼はお前のことが好きだったから付き合った。だけど何か理由があって結婚しなきゃいけなくて。
でも遼は馬鹿正直で嘘がつけなくて、でも心配かけたくないから皆に今の今まで黙ってたんだろーが。

本当は分かってる。こいつだって遼に心底惚れていた。だから結婚するって言った遼に裏切られた気持ちが増えてしまったんだって。
それでも遼の事を何も分かっていないくせに悔しさからそんなことを口にしてしまう翔でも俺の大切な友人だ。

翔に言いかけた言葉は飲み込んだ時どこかに行った。

俺がそれよりも翔に聞きたくなったのは
”明日遼が居なくなる”
「翔、遼はどこにいる?」

同じクラスの翔なら、遼が今どこにいるかわかるはずだと思ったからでた質問だ。

「さっき帰ったよ。」
その言葉が言い切られる前に駄目だと分かっていても足が走り出していた。

なんでこんなに廊下が長く感じるのか、何故俺はいま走ってるのか。
全部分からなくなるくらい必死に走っていた。

信号待ち。汗が頬を伝う。

息はとっくに切れていて、まだ冷たい外の風が肺に入る度、呼吸が途切れそうになる。

足なんかもう動く気がしない。休みたいしもう歩きたくもない。

それでも、俺は遼に会いたい。
その気持ちだけが足を前に進める。

本当はもっと早く、朝の時点で気付くべきだったんだ。遼の様子がおかしいこと、なにか隠してるとも取れる複雑な表情に。

遼の住んでるアパートの前に着く。軽く深呼吸をしてインターホンを押す。


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カチャとインターホンのボタンを押した軽い音はするのに、中では物音ひとつ聞こえない。

不自然だと思った俺はもう一度インターホンを押してみる。耳をすませば確かに中で『ピーンポーン』という音がするのに、他の音は何一つ聞こえない。

冷や汗が背中を伝う。まさか死んでいたり。

ドアノブに手が掛かり、自然とそのドアノブを引いていた。

ガチャリ。
鍵のかかっていないその扉は簡単に開いた。

部屋にポツンと置かれた新聞や請求書の封筒。住んでいた形跡はあるのに人や生活する家具は一切ない。

まさかここは違う人の家かと外へ出て表札を確認する。

『照野』と書かれたそれは間違いなく遼のいた家だという証拠。
中に置かれた請求書の名前も『照野』。

早くなって今日行ってしまったのだろうか。

凄く悲しいのに、俺は多分馬鹿だ。
こんな時でさえ、遼が生きてるのならそれでいいと思ってしまう。

遼の住んでいた場所を離れ、家に向かう最中ポツリと頭に降る冷たい雨は、次第に強く勢いを増していく。

ザーッ。降り出した雨は傘を持たない俺に冷たく真っ黒い髪を濡らしていく。

こんな時はいつも少し明るい遼の髪が前にぴょこぴょこ走っていて、それを茶化しに歩いた。

一人の雨がこんなにも冷たいなんて知らなかった。
目から零れそうになった水に、零れないよう灰色が濃くなってくコンクリの地面を見つめ立ち止まっていると、雨が急にピタリと止む。

顔を上げると大丈夫?と言う明るい髪の遼がそこにいた。

「遼」

言っただけでも女々しくも泣き出しそうになった俺に遼は少し笑みを浮かべると、

「涼のとこに行こうと思ったんだけど、学校飛び出したって翔から聞いて。」

もしかしてと携帯を取り出すと
《show:嘘ついてごめん。こうでもしなきゃお前ほんとの気持ち言わずに終わると思った親友の優しい心だよ》

翔の優しさに背中を押されて言うつもりの無かった言葉が零れた。

「好きだよ、遼。」

遼が目を丸くして、俺に傾けていた傘を落とした。

トンと音を立てて落ちた傘と一緒に周りの音が消えていく。

雨に覆われたここは俺ら二人だけの世界のように、静まっていった。

「私、結婚するんだ。」

嘘なんかじゃない、これだけは本当だったのだと、俯く遼に確信する。

遼と声を掛けようとして止めた、遼の目から零れた水とその悲しい表情に俺は何も声を掛けられなかった。

遼は傘を拾い、俺を通り過ぎ歩いてく。

「涼、」

振り返ると遼の口が俺の口に重なった。

すぐに離される感覚と同時に涙が一筋流れる。

「大好きだよ」ずっと。
消えかかった声がそういった気がした。

ピシャピシャと離れていく愛しい人、当たり前に存在した彼女が初めて俺だけのものではないと気づいた。

俺は大バカ野郎だ。
無くなって初めて気づいたのだから。

遠くなっていく彼女が俺もきっと一生忘れられそうにない。

誰だって上手くいかないことだってある。誰だって手に入らないものだってある。
それが俺にとって一番好きな人だってだけだ。

暖かかった右側が急に冷えていく。
彼女の笑顔が、声が温もりが全て引き剥がされていく。

彼女が昔言った
『涼は将来俳優さんになるよ!演技じょーずだもん!』
その言葉だけが今の俳優という俺を作った。

あの雨の日から俺は何一つ変われていない。
彼女の居なくなったあの雨の日から。

後になって知った。
彼女が結婚したのは親の借金を方に売られただけだって。

今の俺なら何もかもやってやれるのに。あの日の俺は無力だった。
本当にただの馬鹿なガキだ。

昔彼女が俺に無理やり読み聞かせた本に書いてあった。
『運命の人ならまた巡り会う』と。
100年後だろうと来世だろうと必ず会える気がするから
遼、ずっと大好きだ。


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