恋愛小説

いつでも一緒~短編恋愛小説


今日は大学の授業もアルバイトもない日なので、わたしの部屋には幼馴染であり男友達としては一番仲の良い友哉(ともや)が来ている。

けれどわたしはスマートフォンでゲームをしていて、友哉は雑誌を読んでいた。同じソファーに並んで座っていても、やることは別々。それでも別に居心地は悪くはない。

しかし突然送られてきたラインの通知アイコンを見て、わたしは画面をスライドさせると顔をしかめてしまう。

「げっ。ヤバい、全滅だわ……」
スマホを見ながら、思わず呟いたわたし。

そんなわたしを見て、友哉は雑誌を置いて、自分のスマホを取り出す。

「えっ? どのゲーム?」

「違うわよ。クリスマスに遊ぶ予定だったメンバーが全滅したの」

わたしは持っていた自分のスマホの画面を、友哉へ見せる。

女友達から送られてきたラインには『ゴッメーン! 彼氏ができちゃったから、クリスマス、一緒に過ごすことができなくなっちゃった!』とあり、謝罪文章とは裏腹に明らかにはしゃいでいる空気が伝わってきた。

「彼氏がいない女友達だけで集まって、クリスマスに街へ遊びに行こうかって話になってたの。でも次々と彼氏ができて、さっき最後の一人に彼氏ができちゃったみたい」

 何故かクリスマス前には恋人ができやすい。みんな一人で過ごすことや同性同士で集まることに、何故か負け犬の感じがするらしいので必死になっているのかもしれない。

「じゃあさ、ゆい。オレと過ごそうか?」

「……また友哉と一緒?」

「そっ。一人じゃつまんないだろう?」

わたしは改めて、友哉の顔をじっと見る。


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もともと家が隣同士であり同い歳ということもあり、いつもわたしと友哉は一緒だった。

幼稚園・小学校・中学校・高校・大学、そしてアルバイトや部活まで一緒。

わたしが友哉に合わせているワケではなく、偶然一緒になったということもなく、ただたんに友哉がわたしに合わせているのだ。

それを友達に言ったところ、「付き合っているの?」とよく聞かれる。

だけど恋人ではないので「違うよ」と言うと、今度は変な顔をされた。

わたしも友哉も物心つく前から一緒にいるので、別に違和感はない。

しかし周囲の人々はそうは思わないようで、「付き合ってもいないのに、それだけ一緒にいるのは何かおかしい」とよく言われた。
 
確かに自分で言うのも何だけど、わたしと友哉には人間としての差がある。

わたしは成績も運動神経も容姿も、ごくごく平凡な女。

でも友哉は幼い頃から才能を発揮してきた。

テストはいつもほぼ満点、スポーツテストも基準値の上、当然成績は上位。容姿も身長も女性が彼氏として求めるレベルで、更に性格は穏やかで優しい。

恋愛漫画に出てくる王子様キャラ……よりは少し地味だけど、それでも身近にいる男の中ではレベルは高い方だと女友達は噂をしている。

だからしょっちゅう女の子から告白されているけれど、全て断っているみたいだ。

「ねぇ、友哉は恋人をつくって、一緒にクリスマスを過ごしたいとは思わないの?」

ずっと疑問に思っていたことを尋ねると、友哉はキョトンとする。

「……じゃあゆいは?」

「わたしはいないんだから、無理よ」
こんなこと、女の口から言わせないでほしい。

告白をされたことなど生まれて一度もなければ、したことだってない。恋人になりたいと思えるような男に、まだ出会っていないのだ。

――と言うかそもそも友哉のようなハイスペックな男が幼馴染でいつも一緒にいると、他の男がかすんで見えてしまう。
これははっきり言って、友哉が悪い。

「それじゃあオレも同じってことで」

……何か誤魔化されているような気がする。

大学が近くにあるので今でも実家住まいのわたし達は、毎年クリスマスの夜は家族で過ごすけれど、昼間は友達と過ごしていた。友達はいろいろ変わっても、友哉だけは変わらずわたしの傍にいる。

「今からでもクリスマスランチが食べられるレストランを予約するよ」

「……うん」

友哉が言うように、クリスマスを家族が集まる夜まで一人で過ごすのは寂しい。

でもこうやって友哉と二人っきりで季節イベントを過ごすことは、実ははじめてじゃない。

日本は季節イベントが多い国だから、わたしも物心つく前からいろんなイベントに参加してきた。

けれど年齢を重ねていくうちに、だんだんと過ごす人が変わってくる。

幼稚園の頃は、家族や友達。小学生になると友達と一緒の回数が多くなり、中学生になると一部の友達は特別なイベントは恋人と過ごすと言いはじめた。

特別なイベントとはいわゆるクリスマスやバレンタインなど、恋人ならではの季節イベントのこと。

だけど中学生はまだ流石に周囲の目が気になるお年頃だから、誕生日や夏祭りなどは友達グループとして参加をする。

しかし高校生や大学生になると、恋人となった二人は周囲の目なんか気にしない。それどころか恋人として季節イベントに参加することを、誇らしげに言うほどだ。そして同性同士で季節イベントに参加をすることが、どことなく負け犬っぽいらしい。

わたし自身は、別にどうでもいいと思っていたはずなんだけど……。

――いや、そう思えるのは、季節イベントを一人で過ごすことになりそうな時には、必ずと言って良いほど友哉が「じゃあ一緒に過ごそうか」と言ってくれたからだ。さっきみたいに友達にドタキャンされた時だって、友哉に相談するとそう言ってくれた。


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「思い返してみるとさ、今まで季節イベントは全て友哉と一緒に過ごしているような気がするわ」

「たとえば春のお花見とか? 桜吹雪に毎年感動しているゆい、可愛い顔をしているよな」

……ちなみに友哉のこの『可愛い』発言は、子供の頃からずっとだ。他の女の子には言わないみたいだけど、わたしには言ってくれる。

「あっそ」

けれど歳を重ねるごとに何だか恥ずかしくなって、わたしはつい友哉から視線をそらして素っ気ないことを言ってしまう。

「でもやっぱり、夏のイベントの方が思い出深いな。海やプールに行った時には、ゆいの可愛い水着姿が見られたし。夏祭りには浴衣姿が可愛かったなぁ」

「ふぅん」

「秋にはオレとゆいの誕生日があるだろう? 誕生日はオレの方が三週間ほど先だけど、ゆいの誕生日パーティーの方が毎年盛り上がるよな」

……いや、盛り上がっているのは友哉の方。何故か毎年毎年、わたしの誕生日には本人以上に浮かれているのだ。

「冬にはクリスマスや大晦日に初詣、バレンタインやホワイトデーも毎年ゆいと一緒だから、オレは楽しいよ」

――改めて思い返すと、友哉と一緒じゃない時が無かったんだと気付く。挙げてみればキリがないほどのイベントを、友哉と一緒に過ごしてきた。

その他の人生のイベントもお互い家族ぐるみの付き合いをしているから、一緒じゃない時はないほどだ。

何もない時だって時間が合えばお互いの家に行ったり来たりして、のんびり過ごしている。お互いにやることが別々でも、同じ空間にいるだけで何だか安心できる。

友哉は基本的に何でもできるので浴衣の着付けも頼めるし、部屋の片付けもよく手伝ってくれる。勉強も教えてくれるし、料理も上手だからいろいろと作ってくれるのもありがたいんだけど……。

「わたしって、友哉に甘え過ぎているのかな?」

「オレはそれでも良いよ。ゆいに一番に頼られたいから、いろいろと頑張っているんだし」

「それって『頼れる幼馴染でいたい』ってこと?」

「うっん~。まあそんなとこ」
 何故か複雑な表情を浮かべる友哉。

「いつか彼女ができた時の為の予行練習?」

「……いや、そういうわけじゃないけど」
いつもはスラスラと答えるのに、今はどうしてかわたしから視線をそらす。

「別にそれでもわたしは構わないわよ? 結構助かっているんだし」

そう言いながら寄りかかると、友哉は気まずそうな顔を向けてきた。

「えっと……さ。ゆいはオレに恋人ができても、平気なのか?」

「……うん?」

改めて友哉の言葉で問われると、思わずわたしまで変な顔をしてしまう。

今まで想像したことがないと言えば、嘘になる。

友哉にお似合いの彼女ができたのならば……、きっと寂しい思いは必ずするだろう。いつも一緒にいた友哉だからこそ、わたしの心を占める部分が大きいからだ。

「まあ……、寂しくはなるわね」
誤魔化したくなくて、あえて本音を言う。

「オレもだよ。ゆいに恋人ができたら、寂しいし悲しいし辛い」

いや、そこまでは言ってないんだけど……。

……ああ、でもずっとわたしの面倒を見てきた友哉ならば、幼馴染離れをすることをそう思ってしまうのかも。

「なあ、ゆい。改めて考えてみてくれよ」

「何を?」

友哉は向き直ると、わたしと至近距離で正面から向かい合う。わたしの両肩を手でガシッと掴んで、真剣な顔つきで見てくる。

友哉は真面目だけど、わたしは何となく(カッコいいなぁ)なんてぼんやり思ってしまう。

「オレ以外の男と、一緒に過ごしたいとホントに思うのか?」

「話が飛びすぎて、意味が分かんないんだけど……。まあ友哉はずっとわたしと一緒だったからね。いないとなると、何か物足りなく思うかも」

「いや、そうじゃなくてさ! 一緒に過ごすなら、他の男じゃなくてオレの方が良いだろう?」

「まあ確かに言われてみれば、そうね」

 あくまでも淡々と返答をするわたしを見て、友哉はガックリと肩を落とす。


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「何が言いたいのよ?」

何だか二人の会話がすれ違っている感じがしたので、わたしは素直に友哉に尋ねてみる。

すると友哉は複雑そうな表情を浮かべながらも、顔を上げた。

「オレが欲しかった答えは……さ。『友哉と一緒じゃなきゃ嫌だ』って言葉だったんだ」

「友達や家族は一緒じゃダメなの?」

首を傾げて問うと、これまた友哉は困る。

「いや、決してそうは言わないけど……。オレとずっと一緒にいたんだから、これからも一緒にいたいって思ってほしいんだ」

今度はわたしがキョトンとする番。

「友哉はこれからもわたしと、ずっと一緒にいたいって思っているの?」

「そりゃあ……もちろん」

今度は赤い顔で、照れられた。今日の友哉は、顔色や表情がコロコロと変わって忙しい。

でもそんな友哉を見ることができるのは、この世界でわたしのみ。そう考えると……うん、悪くはない。

「オレはさ、ゆいに一緒にいてほしいと思ってもらえるような男になる為に、今までいろんな努力をしてきたんだ」

「そうなの?」

「そうなんだ。勉強も運動も料理も、他の事だって全て頑張ってこれたのは、ゆいに『スゴイ』って認めてもらいたかったんだよ」

――人間、努力だけではどうしようもできないこともあるはずなんだけど、目の前にいる幼馴染はこれまでできなかったことなんてなかったような気がする……。

「だからゆいに『カッコいい』って言われたくって、良い男になれるように自分を磨いてきたんだ」

「それはスゴイ」

「……本当に、そう思ってる?」

「もちろん」

あんまりはしゃがないのは、わたしの性格上、仕方がない。

何でも器用にこなしてしまう幼馴染がずっと一緒だったせいで、感情の起伏が乏しいのだ。

「だっだったらさ、もうそろそろ友達や家族よりも、オレと過ごすことを優先してほしいんだけど」

「今までも、友哉と一緒だったじゃない」

「~~っ! だからぁ、これからはオレとだけ一緒に過ごしてくれよ!」

「……友哉」

「なっ何?」

「言い方が回りくどすぎて、意味が分かりづらい」

わたしの言葉の刃が、グサッと友哉の胸に突き刺さった。友哉は青白い顔で、わたしの肩から手を離す。

「いや、だから、その……。オレはゆいにとって、一番の男になりたいと言うか……」

いつもはハキハキとしているクセに、肝心なところでヘタるのは男としてどうなんだろう?

……でもそんな友哉を見て、(可愛い)と思っちゃうわたしもどうなんだろう?

わたしの顔はあまり動かないから、友哉は気付いていない。これでも結構、喜んでいることに――。

わたしは声なくため息をつくと、友哉を真っ直ぐに見つめた。

「これから友哉は恋人として、わたしと一緒に過ごしたいのね?」

「えっ!? あっああ……、まあそういうことになるかな?」

「分かった。でもその代わり、覚悟はしてね」

「覚悟って?」

「それはもちろん」

わたしはニヤッと笑うと友哉に抱き着いて、驚きの表情を浮かべる彼の頬に軽いキスをする。

「これからは幼馴染として頼るんじゃなくて、恋人としてたぁっぷりと甘えさせてもらうから」

「あっ……ああ!」

――やっぱり友哉を一番喜ばせるのは、わたしだけ。

今はそれが、ただただ嬉しい。


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