恋愛小説

復縁の引き寄せ 縁の前兆~短編恋愛小説


真夜中の2時半、そう、この世とあの世が繋がり冥界の者どもが現世に現れ魑魅魍魎が練り歩く丑三つ時に、パソコンの明かりだけ灯し、猫背でキーボードを叩く女がいた。

女の目は血走り、何やらブツブツ呟きながらブルーライトを放つ画面と向き合っている。
呪いでもかけるのではなかろうかと思われた女の気迫に、偶然ドアを開けてしまった少女は震え上がり、声を上げることも忘れた。

「ぎゃ!!」

声を上げたのは女の方だった。


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「なに!?あービックリした!ちょっと!ノックぐらいしなさいよ!」

「いやいやいや、真夜中にパソコンのキー、カタカタ叩きながらブツブツ言ってるお姉ちゃんの方が怖いわ!」
私は思わず反論した。

「なぁに、誰かに呪いでもかけようって?」
そう言ってパソコンを覗き込むと、妖しげな画面に「あなたの復縁の望み、叶えます」という文字が浮かび上がっていた。

「復縁って、お姉ちゃん、まさかシンゴとより戻したいとか思ってんじゃないでしょーね」
シンゴは姉が去年まで付き合っていた彼氏だが、金銭感覚が合わずに姉の方から別れを告げた。

「ちがう、ちがう。あんなダメ男なんかとよりなんか戻したいわけないじゃん」
姉は間髪入れずに否定する。

「えー、じゃあ誰よ?」

「教えない」

「ちっ、つまんないのー」

そう言って部屋から出て行った妹の背中を見送って、私は心臓の動きがだんだんと遅くなるのを実感した。
あのやろう、こんな深夜に突然部屋に入ってくるとはなんたる無礼者め…!

真夜中にパソコンを広げて復縁サイトを渡り歩く私も私だが、嫌なところを見られてしまった。
できれば誰にも知られないようにコッソリ進めたかったのだが…。

私が復縁したいと思っているのは、妹が言っていた「シンゴ」の前の前に付き合っていた元彼だ。
高校の先輩で、一緒にバンドを組んでいた。

私はキーボード。彼はベース。

高校生によくある、同じ部活内でのお付き合いを始めて、卒業して少しの間は続いていたが、微妙な距離が生じてしまい、なんとなく別れてしまった。

ケンカ別れでもなく、どちらかに好きな人ができたでもなく、強いて理由を探すなら、忙しくなったとか、互いの生活リズムが合わなくなったとか、そんなところだろうか。

付き合う時は周囲から囃し立てられながら、お互い「悪くない」というか「憎からず」と思っていたので、彼氏彼女が欲しいお年頃ということもあり、付き合う事になった。

付き合ってみればそれなりに楽しく、人として、先輩というか友人として元々好意はもっていたので、恋人同士になっても特に問題はなかった。

別れるにいたっても、どちらかがどちらかを熱烈に愛していたわけでもなかったので、単純に同じ高校を卒業した友人同士が、それぞれ別の環境に身を置いたら疎遠になった、ぐらいの感覚だった。

しかし、ここ最近、どうにも先輩の事がチラチラと頭をよぎる。

おそらく、彼氏がいなくなってから1年以上が経過して彼氏がほしいと思い始めた事と、そろそろ結婚を意識するようになり、過去の男性を振り返るに、もっとも気心知れたというか、変な気を遣わなくて済む人の顔を思い浮かべたところ、先輩の顔が浮かんできた、というのが、私の中で辿りついた理由だ。

とはいえ、突然食事に誘うわけにもいかないしなぁ、と思い、何かきっかけでもあればなぁと、パソコンで糸口を探していたのだ。

実践的なアドバイスや、妖しげな呪術系のサイトなど、色々見つけたが、どれも試す気になれず、結局待ちぼうけか、と思いながらも、無料で試せるおまじないぐらいならやっても良いかな、という事で、いくつか手軽にできるものをやってみた。

大して効果はないだろうと思っていたが、本気でそんな気分になったら、自分から行動すれば良いし、という事でそれきり先輩へのアプローチ方法について考えるのはやめてしまった。

それでもふとした瞬間に脳裏に先輩が浮かぶのは続き、こうなってくると当時の、後付けだったにせよ多少は芽生えていた恋心までよみがえってくるようで、なんだか妄想ばかりが膨らむ日々だった。

先輩と再会して復縁する様々なシチュエーションを何パターンも妄想して、数ヶ月が過ぎたころ、高校の同窓生の結婚式に呼ばれて行って来た。

同学年しか呼ばないと前から聞いていたが、会場にはバンドの懐かしいメンバー(同期のみ)が顔を揃えていた。

「久しぶり~」などと挨拶を交わし、昔の話に花を咲かせ、結婚する同期のまわりに群がって写真など撮り、楽しいひと時を過ごした。

宴もたけなわになり、全員で集合写真を撮影する段階で、ざわつく会場内に流れていたとあるBGMが耳を捉えた。その曲は、高校生の時によくバンドメンバーとセッションしていた十八番のナンバーだったのだ。

思わず、近くにいた当時同じグループだったドラム担当の男性と目を合わせる。

「懐かしい!」

すると、新婦が近づいてきて「私たちのグループ以外のみんながよくやってたナンバーもBGMに入れてみたんだよ~」と言った。

バンドは大人数でやるものではないので、同じ部活動の部員でも、その中で少人数のグループに分かれるのだが、彼女は私と同じキーボードだったのでいつも違うグループだった。
でも同じ学年で女子同士ということもあり、仲良くさせてもらっていたのだ。

ドラム担当だった男性が私に「またやりたいね」と言った。
私たち2人が同じ学年、ギターとベースが1つ上の学年だったのだ。

「いいね」と返すと「本気ならオレ、先輩たちに声かけるけど?」と言ってきたので、特に深く考えずに「いいね、やろうやろう」と乗った。

「あ、でもお前あれか、山崎先輩と…」

「もう何年も前の事だし、気にしないで大丈夫だと思うよ」

そうだった!先輩!とその言葉を聞いて思い出す。
と、同時に今まで積もり積もっていた妄想の波が堰を切ったように流れ始めた。
妄想が!現実に!!
と一気にアドレナリンが放出したものの、勘付かれないよう平静を装って、同期たちにはばれないように踏ん張った。

帰宅してから「これは間違いなく復縁の前兆!!あの曲が引き寄せてくれたのならば、結婚式でかけるしかないね!」と気持ちが昂ぶる。
頬の筋肉が弛緩しっぱなしでコントロールできず、ニヤニヤが止まらないのを妹に怪訝な顔で見られながらも、さっさと部屋に篭ってこの喜びを噛み締める。

しかし、どうしようか、とふと思い立った。

先輩はもしかしたらもう結婚しているかもしれないし、彼女がいる可能性だって高いし、仮にフリーだったとしても気持ちが私に戻ってくるかも分からない。そもそも高校生の時、好きと言ってくれていたあの気持ちだって、そう思っていると勘違いしただけなのか、本当に好きでいてくれたのか、分からない。
ひとりで舞い上がっているけれど、実のところどうなんだろうか。

オレから連絡するとは言ってたけど、私からも連絡してみるか、とそう思い、先輩の連絡先を捜し当てる。

簡単なあいさつ文の後に「ユミの結婚式でコタロウとまたバンドやりたいねって話になって、コタロウが連絡するって言ってたんだけど、そういうの、もし気にするようなら断ってもらっても良いからね。私は全然問題ないし、むしろまたバンドできて嬉しいぐらいだから、お構いなく」というメッセージを送った。

果たして返事は来るのか、来たとしてどんな内容か。
リターンメールは無かったので、おそらく届いた事は届いただろう。
あとは待つだけだ。

その日中には返信はなかったが、翌日返信が届いた。


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「久しぶり!連絡してくれてありがとう!元気そうで何よりです。コタロウから連絡来たよ~。みんな仕事土日休みみたいだし、やろうと思えばできるかもな。俺も、全然気にしないし、久々にあかりとも会いたいような気もするし、楽しみにしてる!」

ドスン!と階上でものすごい音が鳴り響いた。
両親と私は一瞬驚いたが、慣れたもので、我が家の生きるポルターガイストの所業に軽くため息をつく。

「またお姉ちゃん?」

「今度は何だろうね」

「まったくあの子は情緒不安定なんだから…」

2階の自室でドンドン音を立てている姉の事など気にもかけずに両親は仲良くお茶をすすっている。
私は好奇心で姉の部屋へ向かった。

「ちょっと!うるさいんですけど!」

は!として扉を振り返ると、妹がこちらを軽くにらみつけていた。

「またそうやって勝手に人の部屋に入る!ノックのひとつぐらい」

「したし」

全く聞こえなかった。

「も~、ノックが聞こえないぐらいはしゃいで、昨日はなんかニヤニヤしてるし、何なのさ……あ!もしかして、良い人と復縁?ねぇ、誰?誰?どの人??」

妹はこうなるとしつこい。

しかしまだ復縁の前兆を感じている段階なのだ。
ここは慎重に行動しなければならない。

しつこく聞き出そうとせがんでくる妹を押し帰し、私は深呼吸をして携帯電話の画面とにらめっこする。
この返信、どうしよう。
ちょっと考えて、打ち始めるものの、書いては消し、書いては読み返してう~んと唸り、また消し、何度かそれを繰り返して、ようやく返信する文面がまとまった。

「返信ありがとう~。私も久々に会いたい!コタローに任せきりだと、いつ頃始動するか分かんないから、もし迷惑じゃなければ近々ご飯でも行かない?あ、でも彼女さんとかいたらサシはやめといた方が良いだろうから、断ってもらっちゃって全然OKだからね!」

よし、これで探りも入れられるだろう。
結婚していれば「彼女じゃなくて嫁」とか「実は結婚しててさ」とか、そんな答えが返ってくるだろう。
もし「彼女”は”いない」などグレーゾーンな返事なら、さらに突っ込めばよかろう。

そして待つ事半刻ほど。

「幸か不幸か独り身でございます(笑)あかりこそ、彼氏いないの?俺はサシで問題無しだよ。いつ頃がいい?」

よっしゃ!とガッツポーズを決めて、早々に日程を決めて食事に行く約束を取り付けた。
そういえば、お酒も交えて2人きりで食事するのは初めての事だ。

酔った勢いで…むふふ、など妄想しながらも、自分が先輩との思い出や、先輩自身を美化してしまっていて、実際会ったら幻滅したりしたらどうしようとにわかに不安になる。
ま、その時はその時で、他の人を探せば良いって話だよな、と気を取り直して、約束の日を待った。

そして、数日後、久しぶりに再会した先輩は、なんというか、あまり変わっていなかった。
少しだけ体格ががっしりとしたような気もしないでもないが、高校生男子特有のひょろ長い背格好だったので、30歳そこそこの男性としてはこの体型の方が自然だ。
老けるほど歳もとっていないし、まだ若々しい表情も、付き合っていた当時とそれほど変わらない印象を与えた。

「変わらないね」
と言うと「そうかな。太ったんだよ」と返ってきた。

「あかりは痩せたよね?」

「うん」

「すっかり綺麗になっちゃって」

「おばさんみたいな事言わないでよ」

この数回のやりとりだけで懐かしさがこみ上げてきた。
と、同時に「あー、やっぱり好きなんだなぁ」とも実感した。

お酒を酌み交わして積もる話を始めると、終わりが全く見えないくらい次から次へと話が弾んだ。
「酔った勢いであわよくば」などという感情ではなく、純粋に帰りたくないと思った。

とはいえ、流石に久々に会ったその日にどうにかなる事もなく、終電ギリギリの時間に解散になった。
しかし別れた後メールで先輩から「話し足りないからまた行こう」と誘ってもらい、とても幸せな気分で家路についた。

それから結局コタロウは仕事が遅く、半年後にグループは再会しておよそ13年ぶりのセッションを実現するのだが、その時すでに私と先輩は5,6回の食事を経て、晴れて復縁する事になっていた。

メンバーに報告すると驚かれたが、からかわれながらも「じゃあ結婚式で演奏しないとな」と喜んでくれた。

3回目の食事の時に、私から先輩に思い切って告白しようと思っていたのだが、いざ思いを告げようとしたら先輩の方から遮られ「ちょっと待って。なんか察した。俺から先に言いたい事言ってもいい?」と聞かれ、改まった雰囲気で告白されたのだ。

「なんか、もし、高校の時、ちゃらんぽらんだと思わせちゃってたらゴメンな」とも言われ「やー、それはどっちもどっちというか、まぁ、お互い若かったねって事で良いんじゃないでしょーか」と返すと「あかりのそういうとこ、好き」と言われ、ギャーと喜んでしまった。

最近、うちのポルターガイストがめっきり大人しくなった。
大人しくなったというか、寄り付かなくなった。
どうやら復縁の願いは叶ったらしく、我が家で暴れる事も真夜中にネットサーフィンすることもなくなった代わりに、そろそろうちを出るらしい。

妹としては正直少しだけ寂しいような気がしないでもないが、両親は「やっと良い人が」と喜んでいるし、これからも2人の新居を襲撃して遊んでもらおうと企てているので、良しとしよう。


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