ライフスタイル

初めて知った福袋の魅力 レディース福袋の夢


毎年、新たな年が幕を開けると、デパートなどが賑わって異様に熱を帯びる。
そう、福袋だ。

新春名物、福袋。
あらゆるブランドがこぞって福袋を売り出して、我々消費者は我先にと中身の見えない大小様々な紙袋やビニル袋に群がる。

鼻息荒く福袋に突撃する人々は、傍から見るとほんの少し滑稽で、福袋にさらさら興味の無い人間から見ると、一体何が彼らを突き動かしているのか、はなはだ疑問であった。

しかし、私にだって興味が全く無いというわけでも、ない。
興味はあるのだ。
それはもう、女性として、ショッピングは好きだし、お洒落だってしたいし、お得感溢れる有名アパレルブランドの福袋などはたいそう魅力的に映った。

しかし、私にはなかなか一歩が踏み出せなかった。
理由はいくつか思いあたる。

まず、どれを買ったら良いか分からなかった。
当然といえば当然なのだが、福袋は中身が分からないから、一体どんなものが入っているのかてんで分からない。いくら相当分のものが入っていると書かれていたって何の参考にもなりゃしない。
値段だけでは一体全体何が入っているのか分かったものではない。

そして、いくら福袋といっても、それなりに高い。
例えば5万円相当のアイテムが入って1万円などで売られているわけだが、そう見るととてもお得な気はするものの、1万円だって決して安いお金ではない。

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私が普段買い付けている服は、かかっても数千円程度のものだから、ブランドものが安くなっていても、それは私にとっては安くはないのだ。

極めつけには、私はお洒落のセンスに全く自信がなかった。
よく街中で流行りの服なんかを見かけても、いつも自分には似合わないような気がして、結局馴染みの婦人服コーナーで数千円の地味な型の洋服を選んでしまう。

そういう意味では、逆に博打的に福袋を買ってみても良いような気もしたのだが、なかなか勇気が出なかった。

そして、いつも何かしら理由をつけては、興味はあるものの福袋は買わずに正月休みをダラダラと過ごしてしまっていた。
今年もまたそうなるのかな、そんな風に福袋に群がる人々をぼんやり眺めていた。

両親のお供で年明けのデパートに来ていたのだが、私には特に目的もなく、デパートの一角にある広いスペースでベンチに腰掛けて行き交う人々の流れを眺めていたのだった。

「よくやるなぁ、ほんとに」
なんとなく口の中でそうつぶやく。

私の目の前で展開されている福袋争奪戦は、おば様方をターゲットにした、ブランドものの鞄や財布などを扱った福袋だった。
私はこれに関しては心から何の興味も無かったので、ただ、熱気溢れるおば様たちを見つめて圧倒されていた。

両親はなかなか戻って来ないし、私も暇の限界に達していたので、ぶらぶらと専門店エリアを散策する事にした。
年明けのデパートは、本当に、笑ってしまうくらいどこもかしこも福袋を売り出しているようで、店員さんたちの呼び込みのかけ声にも「福袋」という単語が入り混じって飛び交っていた。

ファッションフロアでも福袋を売り出していた。

なかなか工夫を凝らしていて、半分くらいは中身が見えるようになっていたり、自分の服のサイズと合ったものを選べるようサイズごとに福袋を分けていたり、「必ず入っています!」という商品が展示されていたり、中身の例として1つの福袋の中身が公開されていたり、どこもかしこも他店の福袋との差異化をはかって頑張っていた。

ふと、私の目を奪った店があった。
福袋に、というよりも店全体に目を奪われたのだ。

その店は、なんでもかんでも流行りのスタイルを取り入れたという雰囲気が無く、長く着続けられるようなデザインの服を売り出しているような、そんな印象だった。

思わずショップスペースに足を踏み入れる。

店員さんも感じが良く、やたらとペラペラ喋りかけてくるわけでもなく、こちらから何か聞きたい事があればいつでも耳を傾けてくれるような距離感で何も言わずに見守ってくれていた。
めちゃくちゃ見られているという感じもなく、私はしばらく店内の服を手に取って見て回った。

いつもの婦人服コーナーでは売っていないような洗練されたデザインの服は、使われている素材も良質なものらしく、値札を見ると思わず伏せてしまう金額だった。

しかし、私はひとつ、とても気に入って、どうしても試着したくなってしまった服を見つけてしまった。

試着だけさせてもらって買わないというのは申し訳ないと思いつつも、着てみたいという欲が勝ち、私は店員さんに試着の要望を申し出た。

「かしこまりました」
と丁寧に、流暢に、そう言って店員さんはテキパキと試着の準備を整えて、私を試着室に促してくれた。

着てみて「やっぱり良いな」と思う。
シンプルなデザインなのだか、シルエットがとても美しい。
いつもの婦人服だとどうしてもおばさんくさくなってしまう私が、この服を着ると幾分か若々しく見えた。

でも、高いから、諦めよう。
そう思って少し気落ちして試着室を出る。

すると、店員さんが「いかがでしたか?サイズやお色など、何パターンかお試しいただいても大丈夫ですよ」と声をかけてくれた。

「ありがとうございます。でも、また今度の機会かな」
と言葉尻を濁して逃げようとすると「あら、今でしたらそちらの福袋に必ず入っている目玉商品で、皆さまそのためにご試着されるもので、てっきりそのためかと・・・失礼いたしました」と少し恐縮して私にそう言った。

「え?福袋ですか?」
思わず聞き返す。

「はい。あちらの・・・よろしければどうぞご覧下さい。今ですと、こちらの商品をお選びいただいて、それに他のシークレットアイテムが入った福袋という事で、かなりお買い得でご提供しております」

値段を確認すると、私の欲しい服に少し毛が生えた程度の金額だった。

「他にはどんなものが入っているんですか?」
ついそう聞いてしまった。

「どうぞこちらへ。サンプルもご覧いただけます」

店員さんに案内されて見てみると、私が欲しいと思った服に合わせられるようなボトムスや、カラータイツ、靴下、そしてヘアアクセサリやポーチなどの小物が展示されていた。

「衣類に関してはサイズを伺った上でお選びいただけますよ」
店員さんはそう言ってニッコリ笑った。

なるほど、これは、チャンスかもしれない。
かねてから「福袋、買ってみたいなぁ」とぼんやり抱いていた福袋願望を叶え、更に欲しいと思った服まで買えるなんて、またとないチャンスだ。

「では、そうですね、いただこうかな。そのトップス、先ほど試着したもので、あと私のサイズは・・・」
と気付いたらそんな事を口走っていた。

そして数分後、店員さんの「ありがとうございました」という声を背に、私は先ほどの広場へ戻っていった。
両親と落ち合うと「あら、何か良いものがあったの」と、ただ退屈そうにしていた私を心配していた母がほっとしたように笑った。

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帰宅して、早速福袋を開けてみる。
恥ずかしながら、私は認めなければならないだろう。

表情に出さないよう、クールさを装っていたものの、内心、ここ数年で一番のワクワク感、ドキドキ感を覚えていたことを。

まるで子どものように楽しみな気持ちを抱いている自分に気がついて、正直驚いた。
福袋を毎年楽しみにしている人、ついいつも買ってしまう人の気持ちが、手にとるように分かった気がした。

この高揚感。
無邪気に飛び跳ねたいような気持ち。
気持ちが若返るというよりも、もう子どもに返ったかのような、そんなはしゃぎたいような気分。

しかも今回は、必ず入っていると分かっている服があるにもかかわらず、だ。
完全に100%中身の分からない福袋ならば、どれほどワクワクする事だろう。

私は逸り高まる気持ちを抑えつつ、袋を開いた。

中身は、さきほど店内で選んだ気に入ったトップス。
これは当然自分が欲しかったものだから納得だ。

それから、自分ではなかなか買わないようなボックスタイプのスカート。
これには少し戸惑った。瞬時に「あ、私着ないな」と思ってしまったからだ。

しかしまじまじと見ると、確かに可愛い。エンジ色とこげ茶色が入り混じったような、深い色合いで素材は厚手で冬に着るには丁度良かった。
自分が普段着用しないタイプのスカートだったために瞬間的に拒否反応を起こしてしまったが、着てみたら案外気に入るかもしれない、と思い直す。

そして深い芥子色のカラータイツ。カラータイツはあまり履かないが、これならばそんなに抵抗なく履けそうだなという印象だった。

他にはシュシュやバレッタなどヘアアクセサリー、折りたたみ式のミラー、花柄の化粧ポーチなど、どれもちょっとしたプレゼントなどでもらったりすると嬉しいような小物ばかりだった。

スカート、履いてみようかな、と思いたち、ドキドキしながら鏡の前で着替えてみた。

なかなか見ない自分に最初は少し驚いたし、違和感も感じたが、鏡に映った自分と睨めっこして、ボトムスが上手く合わせられずにタンスの肥やしになっていたシャツと合わせてみようかな、と思い、クローゼットの奥からアイボリーの色のシャツを引っ張りだしてきた。
それから、Vネックのセーターも合わせてみよう、とひらめき、こちらは使い勝手が良くて愛用している薄手のセーターを上から着てみた。

うん、良い感じ。
今までには無い、新しいコーディネートが出来上がった。

気に入って買ったトップスも、自分が持っている洋服と色々な組み合わせを試してみて、気付いたら私は、自分の部屋で独りファッションショーを開いていた。

新しい洋服ってどうしてこんなに人をワクワクさせるのだろう。

身を包む「新品の香り」が鼻をつくと、それだけで背筋が伸びてピシッとした気分になるし、鏡に映る自分が「いつもと違う自分」になったというだけで、口元がゆるんでしまう。
新しい自分に生まれ変わったような気分になれるのだ。

そして私は福袋を買い、自分では選ばないようなスカートと出会ってしまった。
この出会いが、より一層私をワクワクさせた。

なぜなら、自分では予想のつかない自分を見せてくれたから。

試着してみようかな、とも思わないスカートだったが、着てみると案外しっくり見えた。しかも、このスカートに合ったコーディネートを考えて、実際に着てみてピッタリとイメージにはまると、自分のセンスの良さに自分で「なかなかやるじゃん、私」と褒めたくなるような、そんな高揚感が得られた。

そうか、福袋にはこんな楽しみが詰まっているのか、と私は納得した。
人々が福袋に群がる気持ち、今ならすごくよく分かる。

お得感はもちろん、福袋には夢が詰まっている。
何が入っているか分からないからこそ、ワクワク感がほとばしる。

そうだ、私たちは、夢を買っているのだ。
それは、宝くじや福引きなどでは味わえない、大きな大きな夢だ。

手にとった瞬間、持ち帰る道中、袋を開けるその時、そして中身を見る興奮、開けてから中身をひとつひとつ確認する作業、すべてが夢なのだ。
この夢のひと時がぎゅっと詰まった袋、それこそが福袋なのだ。

もちろん福も詰まっている。
色々なお店が、独自の工夫を凝らして、私たちの心を鷲づかみにするようなステキな福袋を作ってくれているので、運が良ければものすごいお宝にめぐり合う事もできるだろう。

その福と、そして夢が詰まった福袋を、どうして私は今まで斜に構えて買わずに生きてきてしまったのだろう。

こんな素晴らしい体験ができて、こんなにワクワクした気分になれて、そして新しい自分まで見つける事ができたなんて、新年早々素晴らしい宝物を見つけてしまったような気持ちだった。
来年もあのお店の福袋はきっと買いに行こうと思ったし、気になっているアパレルショップの福袋、今年ももう少し買ってみようかな、と思った。

自分のファッションに新しい風を吹かせてくれたのは、このスカートで、まだまだ他にも普段は手に取らないようなファッションアイテムが無数にあるため、私の知らない私を輝かせる洋服は、もしかしたらまだまだどこかに潜んでいるのかもしれない。

それを見つける手がかりにも、何が入っているか分からないけれど、サイズや好みなどはある程度選べるアパレル系の福袋はうってつけだった。

あのワクワク、ドキドキできる高揚感、そしてその後もずっと楽しむ事ができる福袋を求めて、私は新しいスカートと、気に入って手に入れたトップスを合わせた新品づくしのコーディネートで街に飛び出した。

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