恋愛小説

Eternal Ring~短編恋愛小説


私には、物心ついた時から婚約者がいる。

それが誰か分からないけど。

それじゃあ、婚約者がいるとは言えない?

でも、私には“指輪”があるのよ。これが動かぬ証拠でしょ?ちゃんとしたエンゲージリング。

名前は彫られてないけど。

そう、誰からもらったか分からない指輪が―――

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私は何処にでもいる平凡な女。

数年前に子ども、というレッテルを剥がされ、社会人として世の中に放たれた極普通の女。

学生の頃にはそれなりに言い寄ってくる男もいたけど、付き合ったとしてもすぐに別れちゃう。

きっと誰も私のこの指輪の相手じゃないのよ。私にはこの“指輪”をくれたはずの相手がいる。いつか、その相手が見つかるはず・・・。

この指輪はいつの間にか持ってた。記憶を戻せるだけ戻してみても5歳ぐらいからはもうすでに手にしていた。

最初はテレビとかで観た通り左手の薬指にして遊んでた。もちろんぶかぶかではまらなかったけど・・・。

大きくなってくるにつれて、子どものくせに薬指に指輪なんて目立つからおばあちゃんが壊れたネックレスのチェーンを使って首からぶら下げてくれた。

なぜおばあちゃんかと言いますと、両親がいないから。事故だったんだって。それも私が生まれてすぐに・・・。

だからおばあちゃんに引き取られて、(おじいちゃんも病気ですでに他界していた)ずっと育てられてる。

おばあちゃんに指輪のこと聞いても知らないって言う。おばあちゃんは何処からか拾ってきたと思ってたらしい。(そこで交番に届けさせないのも問題じゃない?)

拾ってきた、なんて夢がない。なさ過ぎる。子どもが100円玉を拾ってきたなら分かる。でもそうじゃない。

それに、拾ってきたはずがない。私には言葉に出来ない確信を持っていた。

なぜかこの指輪にすごーく愛着がある。5歳にもならない女の子が普通ここまで指輪に愛着が湧くわけがない。

片時も離したくない。お風呂の時でさえお供しているこの指輪。かれこれもう20年近く一緒にいる。

そんな私が25歳の春、彼と出会った。

別にこいつだ!って断定してるわけじゃないけど、まぁ普通のお付き合いって感じで。

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私が勤めている会社の新入生歓迎パーティで行った居酒屋で隣の席に座ってた。

私はこんなのすごく苦手だったから、酔いが回ってきて盛り上がってる上司や同期に温かいとは言いがたい視線を向けながらオレンジジュースをちびちびやっていると声をかけられた。

「君はあんまり楽しくなさそうだね」
「・・・苦手なの。お酒苦手だし、なんか、面倒臭くて・・・」

初対面の人間にいきなり本音が零れてしまった。

そう言う私に彼は笑いかけて、手にしていたウーロン茶らしき液体が入ったグラスを見せた。

「僕もなんだよ。こっちもすごい盛り上がってるけど、僕はお酒飲むとすぐダウンしちゃうから」

隣の席で騒いでいる人達を眺めて苦笑いしてる。

そう話す彼の横顔になぜか惹かれて。そのまま意気投合して、まぁ、今に至るというわけです。

別にどうってことない、ストーリー性もない、普通の出会い。

付き合っていくにつれて、好きになっていくのは自分でも驚くほど感じていた。

でもどこかで、この指輪のこと気にして、彼なのかな?彼じゃなかったら?とか考えて柄にもなく悩んだりもした。

もちろん、彼には指輪のこと話してないし、見せてもいない。服の中に隠して、ただ、ただ単純に普通の恋愛してた。

彼と付き合い始めて、3年目の冬がきた。

はっきり言う。彼といるのは楽しかった。今まで付き合ってきた男は、実は男じゃなかったんじゃないかと思うほどに。

おばあちゃんにも結構前だけど、紹介したら「いい人だね」って素直に喜んでくれた。彼の両親はなんと、外国にいるらしい。

だからまだ会ったことがない。次の春になったら会いに行こう、そう約束していた。

その約束が、どう意味するのかは私にももちろん分かってる。

もうはっきり言って、指輪のことなんてどうでも良かった。今まで指輪にとらわれてた自分がバカみたい。

指輪が何よ。やっぱりおばあちゃんの言う通り、何処かで拾ってきたんだ。もしかしたら、昔飼ってた犬のポチが咥えてきたのかもしれない。

前の持ち主の方、ごめんなさい。今ではお守り代わりに貰ってます。

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雪が、深々と降る日だった。

いつものように彼と待ち合わせして、予定より10分も早くついてしまった。

この待ち合わせ場所はいつも彼と待ち合わせる公園。小さい頃も、この公園にきた記憶があるともないとも言えない。おばあちゃん曰く、「あんたはここにきて中々帰ろうとしなかったのよ」。

その時は一度立ち寄っただけの公園。狭くて滑り台とブランコとベンチしかない廃れた公園。

私は雪を払ってベンチに腰掛けた。

時間はきた。でも、彼がきてない。

時間をびっちり守るって言う人じゃないからいつも別に気にしないけど、今日はなぜか無性に気になった。

携帯を開いて連絡が着てないかチェックしてみてもいつもの待ち受けが私を見つめてるだけ。

何だろう、この胸騒ぎは。

わさわさと私の落ち着きを食べていく。不安だけを食べ残して、いつまでたっても誰も食べてくれなかった。

なんてことはない、ただの彼の遅刻なのに。たったの数十分遅れただけなのに。

無理矢理悪い想像を追い出そうと頭を振って、笑ってから溜まっていた息を吐き出した。

暗くなりかけている空に吐き出された息が白くなって吸い込まれていく。

ひとまず身体を温めよう。そうしたら落ち着くはず。

そう思って近くの自動販売機へ向かうべく、腰を上げた。

公園を出て道路に踏み出す一歩手前。

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全てが一瞬でいて、スローモーションだった。

横から何かの影が見えて、視線をそこに向けて認識するまでに事は終っていた。

男。そう思ったら体がグラリと傾いて、雪の中に倒れてた。

すぐに男は見えなくなって、何処からか甲高い女性の悲鳴が聞こえた。

何?何がどうなってるの?私、どうしたの?

視界に、紅くなった雪が入った。じわじわと雪を紅くしているものが広がっていく。

血―――それと認識するのにも相当な時間がかかった。雪を溶かしながら広がるそれが、自分から出ているとも思えなかった。

痛みがない。ただ単に感覚が麻痺しているだけなのだろうけど。

視界に誰かの足が写った。知らない人の声が降ってきたけど、頭に入る前に私の脳は全てをシャットダウンしてしまった。
雪が、深々と降る日だった―――

「・・い・・・おい!・・丈夫か・・!」

―――うるさいわねー。私はまだ寝ていたいのよ。

「頼むから・・・起きてくれよ・・・!」

遠くから聞こえていた声が今度は近くではっきりと聞こえた。

仕方ないわね、そこまで言うなら起きてあげるわよ。

目を開けると、突然入り込んできた光に目がくらむ。

それと同時にさまざまな声と音が聞こえてきて、だんだんと意識がハッキリしてくる。

「おい!大丈夫か・・・!」

「私、どうして・・・たんだっけ・・・」

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彼の青ざめた顔に状況を確認したいが、口についてる呼吸器が邪魔で上手く喋れない。

「通り魔に刺されたんだ!僕が遅れたばっかりに・・・!」

不安と後悔の入り混じった表情に涙を浮かべてる。

そっか。私刺されてたんだ。目が覚めたってことは大丈夫だったってことなのかな。

しばらく、考えてみたけどさ。やっぱりダメみたいだね。こんなこと考える余裕あるけど、自分の死期が分かるってのは本当だね。

私、死ぬわ。

「本当にごめん・・・!ほら、これを君に渡したくて―――」

彼が言って、左手がとられた。

ゆっくりと頭を動かしてそれを見てみると、薬指に光る指輪―――

「これを、買いに行ってたんだ・・・。いい指輪が見つからなくて・・・。途中で君が事故に合ったって聞いて、名前も彫ってもらってないけど・・・」

彼が思わず涙を流した。美しく輝く指を見つめる。

その時、私はやっぱり心の底から彼を愛してたんだと思った。

もっと、もっと長くこの指輪がつけたかったな。

もっと、もっと早くこの指輪が欲しかったな―――

すると、突然私の視界は真っ暗になった。

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「おばあちゃーん!」

「まだ遊ぶのかい?それなら、おばあちゃんは飲み物でも買ってこうかね」

何処かで見た風景。私はあの公園にいた。

彼と待ち合わせてる時に見る遊具よりも新しい。少し雰囲気は違えど、あの公園に間違いない。

そして、今より格段に若いおばあちゃん。そして小さな―――私。

私は自分を見て、なぜか疑わず、受け入れきれた。

それはきっと、私の記憶の片隅に追いやられた記憶を今やっと見つけられたから。

私は全てのピースが集まって一枚の絵が完成した時のような達成感と幸福感を覚えた。

小さな私がおばあちゃんのいなくなった公園で遊んでいる。

そして、公園を出て私が刺された歩道から飛び出そうと―――

「危ないわよ」

「?・・・お姉ちゃん、だあれ?」

私に腕を捕まれた私が不思議そうに見上げる。

道路では明らかにスピードの出すぎた車。

そう、私は昔私に助けられていた。そして―――

「はい。これあげる」

「なあに?」

「大切にしてね」

私の、大切な大切な人からもらったものだから。

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薬指を離れた指輪は小さな私の掌に。いつか、煌きを失ってもずっと私と一緒にいた指輪。

私はきっと、もっと早くから彼との指輪が欲しかったのね。

彼とはどうしても大人にならないと出会えないから。

でも、指輪だけは一緒にいてもいいよね―――?

「これを、買いに行ってたんだ・・・。いい指輪が見つからなくて・・・。途中で君が事故に合ったって聞いて、名前も彫ってもらってないけど・・・」

涙を流す彼の顔。

指輪をもらったばっかりの所に戻ってきたみたい。

ありがとう神様、この言葉を言わせてくれるのね。

そんな彼ににっこり微笑み返した。

「名前はいつかちゃんと君が・・・」

私が呼吸器に手を伸ばしているのに気づいて彼が口を閉じて慌てる。

頬に温かいものが流れるのを感じた。

胸いっぱいに広がる幸せ。

言葉は選ぶ必要がなかった。もう残された短い時間で伝えるとしたら、この言葉以外必要ない。

「―――ずっと、待ってたよ」

+++ Fin +++

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