恋愛・恋活恋愛小説

結婚は縁とタイミング


「結婚はな、縁とタイミングやで」
そう豪語するのは、父ほど歳の離れた知人。

たまたま社会人サークルで知り合い、仲良くさせてもらっている。
家族ぐるみで付き合いがあり、ちょうどお子さんたちが私と同世代という事もあり、第二の父のように思っていた。
そればかりでなく、実の両親にはなかなか相談できないような、恋愛相談にも乗ってもらうことがしばしばあった。

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人生の先輩として、そして第二の父として、真剣にアドバイスしてくれるので、私をとりまく恋愛事情に変化が起きると、いつもいの一番に報告してしまう。

それが大学生のうちは、恋愛相談だけで満足していたのだが、社会人になって「結婚」という2文字がちらつくようになると、私の相談も真剣味が増してきた。

その少しぽっちゃりとした見た目と、名前をもじって、周囲から「くまさん」の愛称で親しまれている知人は、普段の少々おちゃらけた態度はあまり崩さずに、しかし決して茶化したりする事なく相談に乗ってくれた。
そんな中で「縁とタイミングや」というひと言が出たのだ。

「オレだって結婚できるなんて思ってなかったもんなぁ」
と懐かしそうに語るくまさんは、奥さんとの出会いの話をしてくれた。

まだ20代の頃にもそれなりの恋愛を経験したものの、そして、その中には結婚を考えた女性もいたものの、何か踏ん切りがつかずに別れてしまったのだそう。

「縁がなかったのか、そのタイミングじゃなかったのか、分からん」
と、くまさんは言う。

付き合っては別れ、付き合っては別れ、を繰り返しているうちに30歳を過ぎて、このままオレは一生独りで生きていくんかなぁとにわかに不安になったそうだ。
「33歳でようやく嫁さんに出会って、その時まだ25歳やったし、全然恋愛とかするなんて思ってもみなかった。でも不思議なもんでな。どっちからともなくつき合うことになって、そのまま結婚したんだな」

縁とタイミング以外に説明がつかないくまさんと奥さんの馴れ初めを聞いて、「え、どっちから、とかそういうの無かったんですか?」と聞くも「覚えとらん」とカラカラと笑った。

こりゃダメだと思い、今度奥さんに馴れ初めをもう一度聞きなおそうとひそかに決める。

そんな私には、今少し気になっている人がいる。
30歳目前にして、結婚相手としてどうか、というところに意識が向きがちなのだが、彼に関してはそういった打算的な要素など無く、いいな、と思っている。
ルックスもそうなのだが、一緒にいてとにかく安心するし、話が弾んで楽しいのだ。

たまたまサークル活動中に出会った人で、それからもよく顔を出すので仲良くなった。

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私が入っているサークルは、日本で暮らす外国人の方と日本語でコミュニケーションをとるというもので、ボランティア活動のようでいて、様々な国の人と交流できるので興味がある人にとってはとても楽しいサークルだった。

彼は、仕事が忙しいようでサークルのメンバーではなかったが、職場にいるベトナム人の社員が私たちのサークルに入っていて、その人に誘われてしばしば遊びに来ていた。

ベトナム人の方とは会話の中で仕事の話をすることも多かったが、彼とはあまり仕事の話はしなかった。
ただ、どこの会社でどんな仕事をしているか程度の知識はあり、結婚相手として不安、という事はなかった。

打算的には見ていないと思っていたけれど、やっぱり考えちゃうよな、と思いながら内心苦笑しつつ、それでもやはり彼の人間性に惹かれて好意を抱いていた。

とりあえず恋愛がしたいと思っていたが、さてはて、自分からアプローチしても良いものか、それとも様子を見るべきか、まず探りを入れてみるかな、と思い、ベトナム人の方にそれとなく聞いてみた。

「彼、付き合ってる人とかいるのかな?結婚は、していないですよね」

すると「多分彼女はいないと思いますね」という答えが返ってきて「好きですか?」と聞かれてしまった。

「あ、いやいや、ほら、よくここに遊びに来るから、彼女がいたらデートで忙しくてこんな所来られないよな、と思っただけですよ」とはぐらかす。

内心、よし!とガッツポーズを決めて、今後の方策を練る事にした。

こんな時にはやはり、くまさんに相談したくなる。
といってもなんとなくアドバイスの内容は予想できるのだが…。

「そらもう、好きならいくしかないやろ!」

やっぱり…。しかし不思議とくまさんに後押しされると、勇気が湧いてくるようだった。

結婚相手としてどうか、打算的に考えたって何も始まらない。
100%の相手なんていないのだし、自分がどう生きたいのか、どこでどんな生活を送りたいのか、仕事や趣味は何を選びたいのか、そんな「恋愛」以外の要素まで絡んでくると、これはもうタイミングが合わなければ踏ん切りがつかないのも無理ないだろう。

そのタイミングは自分で図るものではないし、タイミングが「今」と思っても相手がいなければ結婚はできないし、そこに縁が重なって、はじめて夫婦が成立するのだ、きっと。

そういう事は打算や計算ではコントロールできないのだから、今のこの「好き」という気持ちを大切にして、行動しよう、と、そう改めて決意を固めた。

後から思うと、その決意さえも「ああ、そういうタイミングだったなぁ」とこじつけられるのだが、とにかく私は自分の抱いた好意を彼にぶつけることにした。
普段はどちらかというと受身で奥手なのに、私にしてはめずらしい事だった。

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私から食事に誘い、その食事の席でデートの約束を取り付けた。

近くにできた新しい水族館が、最新の技術を取り入れたパフォーマンスを展開しているという事で、興味津々だが友だちとなかなか都合がつかなくて一緒に行ってくれる人がいなくて…と言ってみた。

そこで何も言われなくても「もしご都合つけば一緒にどうですか?」と聞こうと、その覚悟はしていたのだが、思わぬ事に彼の方から「それなら、その水族館は自分の職場から近いし仕事帰りとかで良ければ一緒に行きますか?」と聞いてきてくれたのだ。

「ぜひぜひ!」と二つ返事で、こちらから誘うつもりだったのに、逆に誘ってもらい快諾し、久々のうきうきした気持ちを楽しんだ。

水族館デートは楽しく、お互いの話も弾み、私は、やっぱりこの人の事が好きだなと強く思った。
彼がどう思っているのか知りたくて、また、なんだか最近の自分は人が変わったように積極的になっていたので、その次の食事の時に告白してみる事にした。

アラサーにもなると、学生時代の初々しさはどこへやら、軽いノリで告白できるような勢いでいたが、いざ「好きです」と告げようと思うと、突然緊張の波が押し寄せて「でへへ」など照れ笑いしながら「あのー、実は、もうお気づきかもしれないんですけど、その、私、好きに、なっちゃいまして…」などと、潔さとはほど遠い告白になってしまった。

彼はそれを聞いて「参ったなぁ」と頭を掻いたので、振られるかもしれないと身構えたのだが、「女性の方から言わせてしまうなんて、男がすたれますね」という言葉が続いた。
「いや、もう何回かデートとか食事を重ねてから、満を持して申し込ませていただこうと思っていたのですが、先に言われてしまった…」

せっかちですみません、と心の中で謝りながらも、ここにめでたくカップルが誕生した事に喜びの舞でも踊りたくなった。

早速くまさんに報告する。
くまさんも同じサークルに所属しているので彼の事は知っているため、「オレが見定めてやる」など言い出さず(いつもの定型句だった)祝福してくれた。

くまさん公認なら大丈夫かな、と思いながら、ひとまずは結婚とか、そういう事は考えずに、この恋愛を楽しもうと心に決めた。

それから暫くは、仕事帰りや休日に、普通のカップルのようなデートを楽しんだ。
家族や友人にも紹介して、周囲公認の恋人同士の関係が楽しくて、浮かれているなぁと自覚しつつも、好きな人と一緒にいられる時間を幸せに思っていた。

小さなケンカはしたけれど、大きなケンカはなく、逆に全く何も無いよりは本音で意見をぶつけ合う事ができる関係性が作れているし、私にとっては非常に居心地の良い関係だった。

彼も同じ事を思ってくれていれば良いな、と思っていたし、実際そのようなそぶりを見せてくれているので、安心した。
徐々に、結婚の事も頭にちらつくようになったが、それについては2人でその話をする事もなく、彼の気持ちはよく分からなかった。

「うーん、タイミング、タイミング・・・」
と悩む私に、くまさんはいつも「焦ってもええことないで」と声をかけて優しく見守ってくれていた。

告白して付き合い出した勢いを取り戻して、私からアプローチするかな、などと思っていた矢先、彼が思わぬニュースを持ってきた。
「話がある」と深刻な表情で言われたので、まさか別れ話か、と内心ビクビクしたが、「転勤する事になったんだ」と告げられた。

「沖縄に」

「沖縄!?」
「そう」

ここで沈黙が流れた。

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「という事で、遠距離になっちゃうんだけど…」

「ど…?」

「どうしたいかは決めていいんだけど、もし色々許すなら、一緒についてきてほしい」

「と、いいますと」

「結婚しませんか?」

なんというプロポーズ!

「結婚してください」とか「僕とずっと一緒にいてください」とか、そういうものを期待している女子に私は声高々に伝えたい。

「私の時は提案型だったぞ。これが本当のプロポーズ」と。しかもそれを聞いて「ついに!きた!!」と喜んでしまった自分がいたぞ、と。

彼の控えめすぎる突然のプロポーズに浮き足たったものの、果たして今の仕事を辞めて住居を引き払って、彼の転勤のタイミングに合わせて結婚ができるのかどうか、物理的に考えて難しいような気がした。
ただ、沖縄で彼と暮らすという事には全く何の抵抗も感じず、その転勤がいつまでか、次は違うところに行くのか、はたまた戻ってくるのか、という点についても全く問題なく受け入れている自分がいた。

人間、やってみればどうにでもなるもので、彼のプロポーズを受けて、私はさっさと会社に話をつけ、家も、よく考えたらちょうど更新のタイミングだったため、解約して実家に戻り、実家から会社まで片道2時間の中、猛然と引継ぎ資料を作成し、キリの良いところで辞め、それと並行して両家への挨拶回りなどもこなし、籍は沖縄で入れるとか、式は落ち着いてから東京で挙げるとか、彼の会社に妻同伴の申請をしてもらうとか、そういった事も片付け、あれよあれよといううちに結婚と引越しの準備を進めてしまった。

自分の心情としては、特に仕事を辞めて職場を離れる事にためらいもなく(たまたま長年取り組んできたプロジェクトが完結してひと息ついていた)、趣味のサークルから離れるのは少し寂しかったが長年仲良くしていたハンガリー人の女の子が母国に帰ってしまったし、ちょうど未練なく地元を離れられる状態だった。

「これこそがタイミングってやつなんですかね…!」
と、くまさんに挨拶に行った時に言うと「そやね」と笑っていたが、ちょっぴり寂しそうに見えた。

「なに辛気臭い顔してるんですか!2人の実家がこっちにあるんだから、多分しょっちゅう帰ってきますよ。また異動になって戻ってくるかもしれないし」
そう明るく告げ、くまさんと奥さんに手を振った。
くまさん家族の子どもたちはそれぞれ独立してしまっていたが、手紙やメールで祝福してくれた。

沖縄での生活は楽しかった。
なにもかもが新鮮で、好きな人と一緒に眠って起きられて、幸せな時を過ごした。

やがて子宝に恵まれて、産む前に挙式してしまうか、産んで落ち着いてからにするか、そんな話をしたが、両者一致で子どもの世話をしながら式の準備はできないという結論に至り、急遽東京で挙式する事になった。

くまさん家族はもちろん、サークルのメンバーも招待し、賑やかな式になって、私は改めて幸せを実感した。

もうじき家族が増えて、ますます楽しい我が家になる事を心から楽しみにしていて、最近は沖縄で仲良くなったご近所さんに沖縄料理も教えてもらい、すっかり馴染みつつある。
彼との縁もそうだが、人と人は縁で繋がっているなぁと、沢山の縁に恵まれた事に感謝するのだった。

これからも様々なご縁と、それから物事を決めて行動するタイミングを見極めながら、笑顔で夫と、生まれてくるわが子と一緒に、この人生を歩んでいこうと、沖縄特有のまぶしい太陽の下でそう思った。

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