恋愛・結婚SS

縁結び神社の縁結び~恋愛ショートストーリー


最近、私の周りには縁結びのお守りが溢れている。
友人や親戚に、よく頂戴するようになったのだ。

小学生の頃、中学生くらいまでは、神社などを訪れると、真っ先にピンク色の恋愛成就のお守りを欲しがった。
それが高校生くらいになると受験のためのお守りに変わり、大学生では金運、社会人になってからも金運…と夢も無いような状態になり、30過ぎて、いわゆる厄年の頃、急に健康を気にしだすようになり、健康運にシフトチェンジし、そして今、また恋愛成就というか、もはや縁にすがるように縁結びを気にするようになっていた。

自分から積極的に赤やピンクのお守りを買いに行ったり、恋愛成就や縁結びの神様の前で真剣にお願いするのはいささか恥ずかしく、甘んじて、友人や親戚のお節介を有り難く頂戴していた。

本当に私の事を心配し、案じてくれている親友からのお守りだけは、大切に肌身離さず持ち歩いていた。

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季節は冬。
実家に帰省して年越しをするのは良い。
寂しくないから。

でも、親戚一同連れ立って初詣に行くのは少し気が引けた。
皆そろって縁結びをやたらと勧めてくるから。

実家の近くにあるそこそこ大きな神社へ足を踏み入れると、立派な境内には人が溢れていた。
とりあえず、お参りをすべく財布から小銭を取り出す。
7円を掴んだ。語呂合わせで「1,1,5円で”良いご縁”」がありますように、という想いを込めて。やはりこういうところを少し意識してしまうんだよな、と我ながら苦笑しつつ、賽銭箱へ投げ入れる。

手を合わせてさて何を願うかと思っていると、隣に立った人の様子がおかしいのに気付いた。
何かブツブツ唱えている。しかも、横にずれて立ち尽くして長いこと口の中でブツブツ唱えている。

変な人…と思い、私は構わず「今年も健康第一で。あと、できたら何か良いご縁がありますように」と心の中でそう念じ、顔を上げた。
ふと横を見やると、まだいる。
しかし今度はブツブツは言っておらず、目を閉じて無言で念じている。

と、その人がふいに顔を上げた。
わ、と思って顔を見ないよう、目を合わせないよう、そそくさとその場から立ち去る。

従姉の息子が「おねえちゃーん、はやくぅ」と呼ぶ声が聞こえて、私は慌てて親戚の群の中に戻った。

元日の神社は本当に大盛況で、右を見ても左を見ても人だらけで、いいかげん辟易してしまっていた。
それでも従姉の子どもたちがかわいくて、行き場の無い母性本能をここぞとばかりに発揮していたら、誰かに肩を叩かれた。

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「あの…」
という声に振り返ると、ついさっき様子がおかしいと思った男性が突っ立っていた。

ひゃ、と思って身構えると「これ…」と何か差し出した。
彼の手には、親友から贈られた縁結びのお守りがあった。

「あ、あれ…?」
お守りをつけているバッグの肩紐の付け根部分をまさぐると、無い。

どうやら、この人ごみにもみくちゃになった時に何かにひっかかって落としてしまったらしい。
「すみません、ありがとうございます」
とお礼を言って、お守りを受け取ってさっさとその場を立ち去ろうとした。

その時、従姉の息子、5歳が「あー!あのおじちゃん、さっきずーっと願い事してた人だ!」と言いだした。
子どもはよく見ているもので、一緒に参拝する時に、変な人がいると記憶していたらしい。

「やめなさい!」
と制する母親(従姉)に気を遣うように、男性は小さく笑って、少年に話し始めた。
「あはは、変な人に見えたよね。僕はね、正しい順番で、きちんとお願いごとをしてたんだよ」
その言葉に興味深々になったのは5歳の少年よりもむしろ我々大人の方だった。

彼の話によると、神社での正しい参拝方法にはいくつか種類があるが、彼がいつも実行しているのは、まず鐘を鳴らして「来ましたよ」というアピール、そして二例二拍手してから、手を合わせて、小声で氏名、年齢、住所を伝える。

「これね、声に出さないとダメなんですって。ちゃんと神様の耳に届くように、小さい声でも、口の中でも良いから、とにかく声に出して宣言するんです」

へぇ~と声を漏らす大人たち。彼の解説は更に続く。

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自分がどこから来た何者かというのを伝えた後、いざお願いかと思いきや、まずは自分の近況報告をするのだそうだ。そして、無事にここにこうして立っていられる事への感謝の気持ち、これから先どうするのかという決意表明、その後、自分以外の事についてのお願い(人の事や、世界平和など)をして、最後の最後に「ちなみに…」という形で自分のお願いごとを控えめに伝えるというのだ。

自分の情報は声に出さなければならないが、この近況報告からは無言で念じるだけで通じるというのだから、神様は、一体どういうお耳をしているのだろうか。

とにもかくにも、これでようやく、彼がずっと賽銭箱の横で突っ立っていたのか、ブツブツ何かを唱えていたのかが分かった。
正しい方法で念じれば、なんだか効果があるような説得力があったが、これはかなり勇気がいる。

この話を聞いて、祖母と母が「ねぇ、じゃあ折角だからお姉ちゃんのためにあそこの縁結びの神様のところで、正しくお願いしてきましょうよ」と言いだした。

「お、縁結びですか」
と男性が何気なく発したひと言で私が顔から火が出るほど恥ずかしくなった。

先ほど彼に拾ってもらったのは、縁結びのお守り。
祖母と母がしきりに勧める、縁結びの参拝。

これはもう完全に、行き遅れた娘の悪あがきにしか見えないだろう。

恥ずかしい思いでいっぱいの私など全く気にとめるでもなく、彼は「奇遇ですね。僕もちょうど参拝しようと思っていたところだったんです」と言った。

見た目は私とあまり変わらないような風貌だったので、結婚していてもおかしくないと思ったが、どうやら独り身らしい。

「あら、おひとりなんですか?」
と声をかけたのは叔母。いつもすぐ思った事を口にする。

「そうなんですよ。もうね、40にもなって」
と苦笑いしながら答える彼は、私の2つ上だという事が分かった。

「ちょっと」
と叔母は私の横腹を小突いたが、何を言いだすんだという目で見るとニヤつきながら口をつぐんだ。

この場の空気に流されて、彼も同行して縁結びの神様のところへ参拝しに行った。
「またあんな感じでやるんですか?」
と聞くと「いや、あそこの拝殿できちんとやったから十分かな、とは思ったのですが、みなさんと一緒だったら、またちゃんとやろうかな」と笑った。

そして、我々一向は長い長い参拝をやってのけた。

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彼は、後から来る参拝客のために、横にずれると焦らずできますよ、というアドバイスをしてくれて、我々は周囲の人々からさぞや不思議な集団に見えたろうと思いつつも、賽銭箱の横にずれて、ブツブツと来ましたよアピールをしてから、心の中で報告と感謝と決意表明と祈りとお願いを捧げた。

「なんかすごーく伝わった気がする」
と叔母は楽しそうにしていた。

その日はそこで別れを告げて、彼とはこれっきりになるかな、と思っていたのだが、縁結びの効果か何かよく分からないが、不思議なところで再会することになる。

「あれ、この前の…」
駅のホームで思わず私から声をかけてしまったのは、最初のインパクトが強すぎて私の記憶に彼の出で立ちが鮮明に残っていたから。

彼は、一瞬「誰だろう」という表情を浮かべたが、すぐに思い出したようで「ああ、おはようございます」と挨拶を返してくれた。

「これからどちらへ?」
と聞くと「東京へ」と返ってきた。

「実家がこちらにあって、今住んでいるのは東京なんですよ」

奇遇だった。私も住んでいるのは東京だったのだ。
東京のどこに住んでいるのか聞くと、私の職場の近くだった。

「縁結びの効果がさっそくあらわれたかな」
彼が冗談めかしてそんな風に言ってきたので、私も軽いノリで「そうかもしれませんね」と笑った。

「良かったら今度メシでも行きませんか。これも何かのご縁、ということで」
との誘いに、自分でも意外だったが、二つ返事で快諾してしまった。

ガードが固い方ではないと思う。
しかし、決して尻が軽いわけでもなく、よく知らない人間と二人で食事に行くなんて、普段の私ならばあまり考えられない。

何が私に快諾させたのか、よく分からなかったが、正月休みが終わり、また日常に戻っていくのが少しつまらなく感じていたから、新しい何かがほしかったのかもしれない。

「じゃ、新年会、という事で、出会いに乾杯、かな」
数日後、居酒屋で私たちは再会した。

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お洒落なレストランなどを選ばないあたりが、彼らしい。
なんというか、少し変わっているけれど、人当たりがとても良く、いつもニコニコしている、そんな人だった。

「すみません、オレ、肩肘張った感じのレストランとか、あんまり得意じゃなくて…」と恐縮する彼に「私、こういうお店の方が好きです」と言うと「良かった」と笑った。
その笑顔がなんともいえず、あどけなく、こんな40歳もいるんだなぁとつい会社の同僚達の顔を思い浮かべて比べてしまう。

彼の話は面白かった。

神社で出会った時に「正しい参拝方法」とやらで参拝していた姿からも想像できるように、知識量がものすごく、幅広い世界の話題に精通していた。
私が全く知らない世界の話も、おもしろおかしく、分かりやすく話してくれるので、どんどん興味が湧いてきた。久々に人の話でこんなにわくわくした。

楽しいひと時を過ごして、なんでこんな人がずっと独りなんだろう、とふと思う。
いや、もしかしたらずっと独りではなかったのかもしれないが。

と、私の思考を読んだかのように
「まぁ、こんな感じで自由に生きすぎて、独りの時間を謳歌するうちに歳だけ食っちゃったんですよね」
と言いだした。

もともと日本にいるのがあまり好きではなく、30代中頃くらいまでは世界中を飛び回っていたのだという。

「回りの奴らの結婚報告が届くたびにちょっと切なくなるんですけど、やっぱり自由には敵わないよなぁと思って羽を伸ばしていたんだけど、40過ぎて、いよいよ寂しくなって。ああ、自分もオジサンになっちまったんだなぁなんて思って、誰かと縁があったらと思って気合入れて参拝してたってわけです」

「やっぱり考え方とか、変わります?40になると…」
と聞いてみた。

「うーん、基本的には変わらないのかもしれないけど、世界を回っていると、色んな夫婦や家族と出会うわけで。そういう人たちを見ていると、独りで自由なのもいいけど、やっぱり家族って良いなぁと思うんですよね。今がちょうど過渡期というか、人生のターニングポイントなのかな」

そんな答えが返ってきて、私にもその40の壁が着々と迫ってきているのに若干の空恐ろしさを覚えた。

「これがそういう意味での縁かどうか、分かりませんけど、でも縁は縁という事で、ちょくちょくご一緒させてもらっても良いですか?もっと、色々、お話聞いてみたくて」
気付くとそんな事を口走っていた。

「もちろん!」
特に驚くでもなくそんな答えが返ってきて、少しひるんだが、同時に安心した。

それから、私たちは仕事終わりに食事をするようになり、彼の方から面白そうなイベントなどがあると誘ってくれて、何かデートのような事をしばしばするようにもなった。

付き合っているのか、いないのか、どちらかから明確に告白をしたりしたわけではないが、この関係が心地良くて、なんとなくズルズルと時だけが流れていった。

きっとそういう人なんだろう。あまり、白黒ハッキリ関係性を決めたがるタイプではないのだ。私も実はそうなのだ。どうも、この「付き合う」というシステムが苦手だったと自覚して、小さな縁が引き寄せた出会いに感謝するようになっていた。

結婚という言葉も頭を何回かチラついたが、きっと彼の性格上あまり望んではいないんだろうなとぼんやり思っていた。

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そんなこんなで1年が経ち、また年の瀬が訪れた。

「今年、帰る?」
「ん、帰るよ」

「じゃあ初詣、一緒に行く?」
「ふふ、懐かしい」

そもそも付き合っているのか何なのか自分でもよく分からなかったため、特に両親や親戚に私たちの事は話していなかったが、とりあえずなんとなく連絡を取り合って境内で落ち合おうかという事になっていた。

そして、去年と同じように親戚で参拝するにあたり、叔母たちの記憶はまだ捨てたものではなく、例の「正しい」参拝方法を実践していたので、私は思わず笑ってしまった。

人ごみの中を歩いて、そろそろ連絡を入れようかと思っていたら、ふいに肩を叩かれた。
振り返ると、彼が突っ立っていて「これ…」と何か差し出した。
その手にはキラリと光る銀の輪がちょこんと乗っていた。

「え…」
完全に不意をつかれて凝固する私を目の前に、彼は真剣な眼差しで私を見つめてこう言った。

「覚えてる?あの日、ここで初めて話しかけた。あれから1年で、オレはずっと君と一緒にいたいと思うようになったんだ。結婚してくれないかな」

私はもちろん快諾するつもりだったのに、お調子者の叔母と、6歳になった従妹の息子が囃し立てる声の方が先に上がってしまい、その声にギャラリーまでできてしまい、私は照れながら「よろしくお願いします」とひと言だけ返した。

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